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※少年主人公と子マルコは白ひげ海賊団クルーで生い立ちが微妙
「ナマエ、ナマエ、しってるよい?」
ひょこりと顔を出してきたマルコが目をキラキラさせて寄越した言葉に、おれは首を傾げた。
一体、今度は何の話だろう。
おれが拾われてこの船に乗って、揃って白ひげ海賊団の一員となってからというもの、おれより少し先に船に乗っていたマルコはよくこんなことを言ってくる。
大体それは『何か』を発見した時で、大体がおれも知らないことだった。
見つけた物を手に持って走ってくることもあるし、うまく言葉に出来てないマルコの説明をずっと聞いていることもある。
今日はどっちだろうと思いながら立ち上がって近付くと、近寄ってきたおれを見たマルコが、おれと同じ小さなてのひらをその口の傍に寄せた。
「あのね……ナイショのことよい」
「ナイショ?」
「そう、ナイショ!」
きっと誰かに『こっそり』教えてもらったんだろう、入口にしがみ付いてそんなことを言い放ち、マルコがきょろきょろと周囲を確認する。
おれも同じように入り口から顔を出して、部屋の前に転がる通路を確認した。右も左も、人影は見当たらない。
『遊んでこい』と言われて解放されたこの倉庫はモビーディック号の随分端の方で、用事がある人でなければ近寄らないから、それも当たり前だ。
視線を戻すとマルコがこちらを見ていたので、こくりと一つ頷く。
おれのそれを見てこくりと同じく頷いたマルコが、もう一度こそりと小さく言葉を吐き出した。
「あのね……マル、もうすぐたんじょーびなのよい。それでね、たんじょーびって、プレゼントもらえるんだって」
すごいことだと言いたげに寄越された言葉に、おれは目を丸くした。
プレゼント、の五文字をくるりと頭の中で回して、それからゆっくりと瞬きをする。
「……どうしたのよい?」
おれの反応が薄いことが分かったのか、不思議そうにマルコがこちらを見つめて、そんな風に言葉を零した。
それを聞きながら、あの、と言葉を落とす。
「プレゼントって、なに?」
『たんじょーび』と言うのは、さすがに知っている。
船に乗ったときに船医のじーさんに聞かれて答えた、おれが生まれたらしい日だ。
大体の曖昧な日付しか覚えていなかったからそう答えたら、じーさんが適当に日付を決めたらしい。
マルコも多分似たようなもので、教わった日付は確か明後日だった。
しかし、『ぷれぜんと』とは何だろう。
貰えるもの、とマルコが言ったから、何かを渡されるんだろう。
服も食事も寝床もこの船にやってきてからは満たされていて、欲しいものなんておれは何も浮かばないのだが、マルコには何か足りなかったんだろうか。
おれの言葉に首を傾げたマルコが、んー、と声を漏らして眉を寄せる。
「……プレゼントはー、えーっと、えっと」
何やら難しい顔をして、うんうんと唸ったあと、マルコの目がこちらをもう一回見た。
「…………プレゼントは、プレゼントよい」
唇を尖らせてそんな風に言い放ち、マルコの手がこちらへ伸びる。
がしりと腕を掴まれて、そのままぐいと引っ張られた。
「マルコ?」
「マルもなかみはおしえてもらってないのよい。いまからききにいくよい!」
言葉を放ち、そのままぐいぐいと引っ張りながら歩きだされて、とりあえず倉庫を出た。
誰もいない通路を二人で歩いて、前を歩くマルコの背中を見やる。
「…………ナイショなんじゃなかったのか?」
「あっ!」
よくわからないまま、『プレゼント』の正体を確かめるために移動しながら呟いたおれの問いかけに、マルコが短く悲鳴を上げたのは、それからすぐのことだ。
仕方なく二日待って、当日に『プレゼント』を貰って大喜びするマルコの横で兄貴分に聞いたら、どうしてか泣かれてしまった。
とりあえず、『プレゼント』と言うのはマルコにとってはとっても嬉しくてたまらないもので、大人にとってはどうしてか泣けてくるものらしかった。
end
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