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※主人公は白ひげクルー(古参)



「マルコ! 誕生日おめでとう!」

 俺がそう言うと、マルコは変な顔をした。
 怪訝そうなその眼差しに首を傾げると、俺の方から自分の右手に視線を移して、何かを確かめるように指を折り曲げる。

「……まだ早ェよい」

 そうしてそれから呆れたように言葉を零して、おれの日付感覚が間違ってるのかと思っただろい、と続けた。
 確かに、今日はまだ十月一日だ。
 マルコの誕生日は五日だから、少し早い。

「確かにそうだけど……仕方ないだろ」

 寄越された言葉に眉を寄せつつ、俺はそう言った。
 何せ、今夜から誰かさんは斥候に出るのだ。
 言って帰って一週間はかかると聞いている。
 当日に本人がいない誕生日なんて、なんとも味気ないものだ。

「先に言っておこうと思ってさ。俺が一番乗りだろ?」

 言葉を放って微笑むと、俺のそれをうけたマルコが、へえ、と声を漏らした。
 こちらを見やって面白がるようにその唇に笑みを浮かべ、まあ確かに、と呟いたその手が軽く自分の顎を擦る。

「こんな早くに言ってきたのはナマエくらいなもんだよい」

「だろー?」

 『マルコが帰ってきたら誕生祝いをしよう』と言う話は固まっているが、多分まだ誰も言っていないだろうと思ったのだ。
 別にこんなことには何の意味もないが、しいて言うなら一番目というのは気分がいい。
 満足した俺は、持ってきたものをマルコの方へと押し付けた。
 小さな紙袋ががさりと音を立てて、受け取ったマルコが不思議そうに紙袋を見下ろす。

「なんだよい?」

「旅のおやつだよ。まあ、休むときにでも食べてくれ」

 俺がサッチに手習いして作った焼き菓子だ。
 日頃やらなくてはならないことは色々あるが、暇をつぶすのは海の上ではなかなか難しい。
 楽器にも読書にも銃器の扱いにも飽きて、じゃあ次は何をしようかと考えて船内をうろついた俺が目を付けたのは、厨房を預かる数人のクルー達だった。
 最初の頃は焦がしてばっかりだったが、最近は成功している。
 それを知っているマルコが、手作りなのかと尋ねつつがさりと紙袋を揺らした。
 どことなく嬉しそうな顔をしてくれる相手を見やって、そうそう、と頷く。

「あ、卵は使ってないから安心してくれよな」

「卵?」

「だってほら、ともぐ」

 い、まで言う前にぶんと振りぬかれた腕をのけぞって避けたのは、今までの経験則からしっかりと備えていたからだ。
 頭が床についたので、ぐんと腹筋と背筋を使って起き上がる。

「あぶねェな」

「相変わらず体の柔らけェ奴だよい」

 眉間にしわを寄せて、舌打ちまで零した相手に、ははは、と笑う。
 頼りになる『一番隊長』は、案外喧嘩っぱやい男だ。
 大体その喧嘩の相手は俺やサッチと言った古株のクルーで、弟分達相手にはほとんどやらない。兄貴ぶっているマルコは、子供っぽくも可愛らしい。

「まあまあ、怒るなって」

「怒ってねェよい」

 なだめるためにポンポンと肩を叩くと、つんと顔を逸らされた。
 それでも、本当に怒っているんだったら手元のものを付き返してくるだろう。
 しかしそれはせずにしっかりと紙袋を握っているんだから、別段それほど怒っているわけでもないのだ。

「せっかく誕生日なんだし、早く帰ってこいよな」

 言葉を向けて微笑みかけると、じろりとこちらを睨みつけたマルコは、それから仕方なさそうにため息をついて、『わかったよい』と返事をした。



end


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