銀に輝く愛
※無知識転生主はドンキホーテファミリー古参で若様が好き
指に巻きついたシルバーが、少しばかり光を弾く。
つたない模様の入ったそれは、俺にぴったりの大きさだった。
それも当然だろう。これは俺の指の大きさに合わせて作られたものなのだ。
丁寧に磨かれたそれに入った印は、少しいびつだが、間違いなく俺の大事な男が旗に掲げたマークである。
「いつまで見てやがる」
指についた銀を見つめてにやにやとしていたら、ついにあきれたように声を掛けられた。
顔を引き締めることもできずに視線を上げれば、椅子に座って足を組み、ついでに言えば頬杖までついた王者の風格の俺達のドフィが、声音の通りのあきれた顔をしている。
「いや、だって、嬉しくってさ」
誰かからこういうのもらうの初めてなんだ、なんて言いながら、俺は自分の手を広げて見せた。
左手の薬指に収まっているのは、俺の指にぴったりの大きさの指輪だった。
丁寧に磨かれた銀細工は、つい最近『営業』に訪れたこの島で採掘されている不思議な粘土で作ったものだ。
島では粘土銀と呼ばれているらしいが、形を作り乾かして焼くなんて言う陶器のような扱いを受けて、そのうえで磨かれたそれはもはや普通の銀細工と変わらない。
おもちゃみたいだ面白い、とこの島の『工芸品』の原材料を見つけてはしゃいだ俺は間違いなく子供っぽかったが、『家族』達はみんな同じく楽しんでくれた。
そうしてそれは、今椅子に座っている誰かさんも例外じゃない。
「初めてだってんなら、もっと上等なもんを買ってやった」
むっとした顔でドフィは言い放ち、くい、とその指を動かした。
糸にとらわれた腕を引かれて、そのまま俺も相手へと近付く。
そのままぐいぐいと左手を引っ張ってくる相手に、慌てて拳を握ったのは、なんとなく『とられる』と思ったからだ。
「おれに抵抗しようってのか、ナマエ」
拳を握った俺を見上げて、フフ、と笑い声をこぼしたドフィが低い声を漏らす。
それを見やり、だって、と俺は拳を握ったままで言葉をこぼした。
「ドフィが俺のものをとろうとするのが悪いんじゃないか」
「これァおれが作ってくれてやったもんだろうが。つまりはおれのだ」
「なんて横暴な」
それでこそ俺達のドフィだが、俺は思わず眉を寄せた。
批難がましい視線を送った俺を見上げて、なんだ、とドフィが口を動かす。
「なんの価値もねェ玩具だろうが。もっと上等なもんを買ってやる」
言い放ち、その言葉の後ろに続けられたのは、この島でもかなりの売り上げを出している高級店の名前だった。
いかに稼業に勤しんだとしても、おいそれと出せないような値段のアクセサリーが売られているというのがもっぱらの噂だ。
そんな店で何かを買ってくれるだなんていうのは、間違いなく破格の待遇である。
俺は別に誕生日でもなんでもなかったはずだが、相当取引がうまくいってるんだろうか。
少しそんなことを考えたが、指にはまっているものがほかのものに挿げ替えられるという事実が訪れるのは明白で、それを感知した俺は首を横に振った。
「俺はこれがいいんだよ」
「ああ?」
「だってこれ、ドフィが作ってくれただろ」
指を出せと命令されて、戸惑った矢先にくるりと左手の中指に糸を巻かれた。
どうしたのかと思ったら、銀ののべ棒を作るんだと言って粘土遊びを楽しむバッファロー達の傍らに交じったドフィが、大きなその手でこの指輪を作ってくれたのだ。
初めて作ったのにさすがドフィというべきか、この指輪は完璧で、丁寧に磨いてもくれたこの世に唯一無二のシルバーリングは、俺が今目の前にいくら積まれても決して手放すことのできない至高の宝だ。
「大事にしたいんだ」
だからとらないでくれと言葉を重ねて、俺は改めてしっかりと拳を握った。
この程度の抵抗、ドフィの能力にかかればあっさりと無為なものにできてしまうのだが、じっと見つめた先のドフィが唇を曲げて、その眉間のしわを深くする。
暗い色の交じるサングラスの向こうの瞳はこちらからは見えないが、注がれる視線を感じるので、俺のことを見ているのは間違いない。
「…………馬鹿か、てめェは」
やがて先ほどよりさらにあきれのにじんだ声をこぼして、ドフィの背中が椅子の背へと押し付けられた。
それとともに腕を引き寄せていた糸の感触が消えて、俺も自分の左手を自分のほうへと引き寄せる。
右手でそっと銀でできた指輪に触れると、俺のしぐさを見ていたらしいドフィの口からは深くため息が漏れた。
「せめて、その指以外につけろ」
「え? なんで」
「その指にはもっとふさわしいもんが来るだろうが」
だから指輪をつける指を変えろと言われて、なんだか少しばかり悲しくなった。
俺がかつて生まれて育った世界でも、そしてこの世界でも、この指に指輪をつける意味は特別だ。
左手の薬指、なんていう分かりやすいところに指輪をつけているのだが、やっぱりドフィにはうまくそれが伝わらない。
好きだと言ってみても『知ってる』と子供のころのように笑われるだけで、男らしく押し倒しに行ってみても『何をふざけてやがるんだ』とそのまま放り投げられるだけで、愛してると言ったらまるでその言葉が罵り文句だったかのようなものすごい顔をされた。
それならばと行動で示そうとしているのだが、どうにもドフィはわかってくれない。
それが俺とドフィが男同士だからなのか、それとも俺がほかのみんなと同じようにドフィにとってはただの『家族』だからなのか、それ以外に理由があるのかはわからない。
いっそドフィの糸を拝借して指に巻いておきたいくらいだが、イトイトの実の能力はドフィの好きな時に消してしまえるので、それは難しい。
「もし誰かと同じ指輪をつけることになっても、これの上につけるからいいよ」
「……どれだけ気に入ってやがるんだ」
そんなに銀が好きか、と再び頬杖をついたわかっていないドフィの言葉に、好きだから仕方ないんだ、と俺は微笑んで答えた。
俺の言葉にますますドフィは呆れた顔をして、だというのにどうしてか大量に仕入れた粘土銀で作ったあれこれで俺の部屋を埋めてしまった。
足の踏み場はぎりぎりあるが、ベッドで気持ちよく眠れるスペースすら足りない。
親愛の気持ちは伝わるのだけど、絶対的に悪戯の割合の高い仕打ちだ。
だから怒ったっていいはずなのに、ほとんどがドフィの手作りだと聞いたらまるで怒れなくなってしまったんだから、つくづくこの世は惚れた方の負けだった。
end
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