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夢にまでみたの
※主人公はNOTトリップ主
※ロー不在?


「シャチ! 聞いてくれ!」

 大きな音を立てて扉をあけ放たれ、シャチはびくりと体を揺らした。
 驚きをその顔に浮かべている仲間には構わず、何かを抱えたナマエがシャチの座る椅子まで駆け寄る。
 頬をわずかに紅潮させ、どう見ても興奮していると分かるその様子に思わず身を引きながら、何だよ、とシャチは言葉を零した。
 そうして、その状態でナマエを観察して、その両腕に抱えられた異様な物体に眉が寄せられる。

「…………何だよ、それ」

「なんか、船長がくれた!」

 呟くシャチへ返事をして、ナマエが両手に持っていたものを高く掲げて見せた。
 その手が掴んでいるものは、確かに人の腕だった。
 肩よりわずかに下から、衣服ごと美しく切り取られている。
 本来ならその断面図からは血が滴り落ちているだろうに、血の匂いすらしない。
 それはすなわち、その切除を行ったのはこの潜水艦を率いる賞金首であると言う証だった。
 そしてナマエの持つその腕が誰のものなのかも、シャチには見覚えがある。

「……何で船長の腕なんか持ってんだよ」

「だから、船長が貸してくれたんだって!」

 指に刻まれた刺青に首を傾げるシャチの前で、ナマエはどうにも興奮状態だ。
 とりあえず落ち着けよ、とその肩を叩き、シャチは自分の傍らの椅子をナマエへ進めた。
 頷いてそちらへ腰を下ろし、ナマエがその両手でしっかりと腕を抱きかかえる。
 一見して異様な光景だが、通路に人の体の一部が落ちていることがそれほどないわけでも無く、故に見覚えのある気もするその光景について、シャチはあえて言及はしなかった。
 ただ、ローの能力によって切除されているというのなら、その神経はローの体とまだつながっているはずなのに、だらりと放り出されている掌に少しばかり首を傾げる。

「船長、寝てんのか?」

「おう! 寝てる間預かってていいって言われた!」

 問いかけに、ナマエはとても嬉しそうに頷いた。
 何がどういうやりとりを経てそうなったのかは分からないが、そうか、ととりあえず頷いて、シャチはテーブルの上のグラスに水差しから水を注ぐ。
 それをそのままナマエへ差し出すと、ありがとうと受け取ったナマエがグラスに口を付けた。
 喉を鳴らして水を飲む様子を、シャチが眺める。
 ナマエと言う名前の彼は、この潜水艦の中でも恐らく一番、トラファルガー・ローと呼ばれる男を慕う青年だった。
 船長船長とローを呼び、後をついて回り世話を焼く。
 面倒くさそうにしながらもローがそれを受け入れていることをシャチは知っているし、他のクルー達もそうだろう。
 ローは、ナマエが自分に向ける好意を翻すことなど疑いもしていない。
 そうでなければ、大事な片腕を預けるわけがないのだ。

「どうせまた、船長が眠るって言ったのに添い寝するとかどうだとか騒いだんだろ」

「…………何でばれた……!」

 ナマエがグラスを置いたところでシャチが言うと、ナマエが何やら衝撃を受けたような顔をした。
 心が読めるのか、と恐る恐る尋ねてくる相手に、いつもやりあってんだから分かるに決まってるだろ、とシャチが笑う。
 ローはあまり体温が高くなく、他より体温が高めのナマエが『添い寝』で温めたいと拳を握っている姿はよく見かける。毎回ローにすげなく断られているのだが、ナマエは全く意に介した様子も無い。
 ここまで真摯に相手を思い続けられるのはすごいと思う反面、もしも自分に向けられたらウザったくなって蹴り飛ばしてしまうだろうと思うので、シャチにとってのトラファルガー・ローはやはり尊敬に値する船長だった。

「それで、その腕はどうするんだ?」

「とりあえず、綺麗に洗って、ちょっとお湯にでもつけてあっためておこうと思う。末端からでも温めておいたら、次回は足を貸してくれるかもしれない」

 尋ねたシャチへ、きりっと顔を引き締めたナマエが言葉を放つ。
 その手がローの腕を持ち直し、そっとローの掌を掴まえた。
 指で触れられても、ローの手はぴくりとも動かない。どうやら随分深く眠り込んでいるようだと、それを観察してシャチは思った。

「爪も手入れしたいし……あ、あと、あっため終わったらハンドクリームも塗る」

 どうやらすでに自分がその手に対して何をするかは決めているらしいナマエへ、そうかそうか、とシャチは頷いた。

「だったら早くやらねェと、船長起きてくるんじゃねェのか」

「! そうか……!」

 シャチの言葉に、がたりとナマエが椅子から立ち上がる。
 ローの腕を抱え直し、お湯沸かしてくる、と言葉を置いて、ナマエはそのままシャチを遊戯室へ放って駆け出して行ってしまった。
 帰り道まで騒がしい相手を見送り、はは、とシャチの口から笑いが零れる。

「あいつはいつでも全力だなァ」

 きっとローが目を覚ましたら、ぴかぴかに磨かれた自分の手を見て眉を寄せるのだろう。
 その仕草すら想像できると笑ってから、数秒後。

「…………湯に浸けるのは止めろ!」

 『就寝中に手をぬるま湯に浸けると漏らす』などという人体の不思議の噂を思い出し、男の尊厳を守るためにナマエを追って駆け出したシャチは、何とも船長思いのクルーである。
 ついでに言えば、手を触られまくっていたローは目を覚ましていて、温かい湯を用意したナマエとその手からタライを取り上げようとするシャチの元まで降臨し、腕を奪還して船長室へと帰って行った。 



end


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