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圧倒的勝利の日
※うっかり思いついた小話の加筆修正
※主人公とマルコがくっついたから主人公が青雉に報告したら黄猿まで筒抜けだったよ




「……クザン大将は、一度地獄に落ちるかサカズキ大将にその口溶かしてもらったらいいと思います」

「あらら……酷いこと言うね」

 じろりと傍らを見上げて言うと、青雉が少しばかり困った顔をして肩を竦めた。
 そんなに酷いこと言ってませんよ、とそれに答えて、できる限りの怒りをこめてその顔を見上げる。

「一度地獄見て来いって言ってるだけですよ」

 青いシャツに白ベストの悪魔を見上げた先にあったのは、その顔と晴れ渡った青空だった。
 今日もずいぶんといい天気だ。
 本当なら今頃、風を受けつつ海原を進んでいただろうモビーディックは、昨日停泊した小さな無人島の傍に留まっている。
 理由はもちろん、白い砂浜に佇む影のうちの一人が、船へ乗り込んでいないからだ。

「何であそこで、マルコ隊長とボルサリーノ大将がにらみ合ってるんですかね」

「マルコーやっちまえー!」

「大将黄ザルなんてたたきつぶせー!」

 モビーの高い船縁によじ登った隊長格やクルー達の何人かが、大きな声で声援を送っている。
 俺がどうしてその様子や砂浜を見ることが出来るのかと言えば、甲板に設置された氷製の高台の所為だ。
 ひえひえとしたそれの上に強制的に運ばれて、ビニール製のシートを敷いて座らされている。クッションのおかげであまり冷たくはないが、用意周到すぎないか。
 俺がモビーディック号に乗って白ひげ海賊団となって、長く時間が経った。
 今日は、時々何故か遭遇するたびにやり過ごしていたはずの海軍大将が、どうしてか二人揃って白ひげ海賊団を強襲してきたのだ。
 あの瞬間のクルー達の殺気立ち具合と言ったら無かった。ものすごく怖かった。

『オ〜……用事があんのは一人だけだからねェ〜、そう怖い顔しなさんなァ〜』

 俺だったら泣いて謝って逃走しているだろう雰囲気をかもし出していたクルー達へ笑ってそう言った黄猿が指名したのは、何故か俺ではなくてマルコだった。
 他のクルーに劣らないぐらい怖い顔をしたマルコは、俺を庇うようにしながら黄猿と向かい合って、そして今は船を降りてあの砂浜の上だ。
 俺も一緒に降りようとしたのに、黄猿と一緒にやってきた青雉が甲板に氷を積んで俺をそこへ乗せた。
 今の白ひげ海賊団は、マルコと黄猿を見守る連中と、俺の隣の青雉を見張る連中、それから甲板へ出てきた白ひげを守りつつ事態を静観している連中で分かれてしまっている。
 さっさと帰れ。
 何となく黄猿が来た理由に心当たりがあるだけに、そう思わずにはいられない。

「……海軍大将が二人揃って白ひげ海賊団に近付くとか、戦争でもしたいんですか。さっさとあの人連れて帰ってください」

「えー、それ、おれの所為?」

「クザン大将の所為じゃなかったら何だって言うんですか!」

 言い放って、高い所にあるその顔を睨みつける。

「言ったんでしょう。ボルサリーノ大将には内緒にしてくれって言ったのに、言ったんでしょう!」

 黄猿がどうしてマルコに会いに来たのかなんて、理由は俺には一つしか考えられない。
 つい最近、俺とマルコは正式に『お付き合い』と言うものをはじめた。
 マルコと両思いになったのが嬉しくてにやけてしまっていたらしく、先週遭遇した青雉に俺が上機嫌なことを見抜かれて、理由を吐くまで船へ返さないと引きとめられたのだ。
 男が男と付き合っているなんて知られたらどんな反応をされるか分からなかったから、誤魔化そうとしたのに、誤魔化されてくれなかった。
 だから仕方なくちゃんと言って、驚いた顔はしたけど別に軽蔑したりしないと言った青雉に、俺は頼んだ。
 確かに頼んだのだ。

『ボルサリーノ大将には内緒にしてくださいね』

 青雉はどちらかと言えばおおらかなほうだけど、黄猿は違う。
 何を言われるかも何をされるかも分からなかったからそう言った俺に、大丈夫大丈夫と青雉は笑っていた。
 何が大丈夫だこの嘘吐きめ。

「だってほら、仲間はずれって寂しいよ? 大丈夫、そのくらいでボルサリーノはナマエを嫌ったりしないって」

「バレなけりゃ仲間はずれって気付かれもしないし、嫌われるとか嫌われないとかの問題じゃないんですよ」

 この馬鹿が口を滑らせた所為で、何故かマルコが黄猿と一対一で向かい合う羽目になっているのだ。
 どうして黄猿が俺じゃなくてマルコを指名したのかは分からないままだ。
 あのまま戦闘が始まって、マルコが痛い思いをしたらどうしてくれるんだ。
 何で言うんですか、と言い放った俺に、青雉は肩を竦めた。

「あー……そりゃまあ、あれだ……ぐぅ」

「寝るな!」

 とぼけたフリをして寝息を零した相手に、俺は思い切り蹴りを放った。
 なかなかのいい音を立てて足を打たれた青雉が、ずりっと滑って氷から落ちる。
 どたん、と物音を立てて青雉が下へ落ちたのに、青雉を警戒していたグループがざわりと騒いだ。
 白ひげの周りの連中もだ。エースが今にも燃やしたそうな顔で落ちた青雉を見ているが、その肩にサッチが手を置いて止めている。
 周りが殺気立っていることに気付いているだろうに、気にした様子もなく立ち上がって、青雉は頭をかきながら氷の上へと戻ってきた。
 少し溶けていた氷が、また冷え冷えと凍らされる。

「あたたたた……蹴らないでよ。砕けちまうじゃないの」

「もういっそ砕けたらいいと思います」

 上がってきて隣に座った青雉へ俺がそう言い放ったところで、大きく歓声が上がった。
 驚いてそちらを見やれば、白い砂浜の上にばさりと飛び上がったマルコが、その体の半分を不死鳥に変えていた。
 向かい合った黄猿も光の弾を生み出して、まさしく臨戦態勢だ。
 何と言うことだ、戦闘が始まっている。

「ほら! クザン大将がボルサリーノ大将に口を滑らせたりなんてするから、戦闘が始まったじゃないですか! はやくあの人連れて帰ってくださいよ!」

「いやァ、楽しんでもらえてよかったよかった」

 傍らへ向かってそう叫んだのに、青雉はのほほんとした顔でそんなことを言った。
 誰が楽しんでいるんだ誰が。
 確かにマルコを見守って声援を送っているクルー達は少し楽しそうだが、いつだって戦えるように装備を抱えている。
 もしマルコが黄猿にやられそうになったら、すぐに飛び込んでマルコを助けるつもりだろう。俺だって弱いけどそうしたい。
 睨みつけている俺の傍で、迷惑すぎる海軍大将をつれてきた迷惑な海軍大将が、ひょいとポケットから何かを取り出した。
 それはなにやらレースで作られた豪華なリボンで、思わず目を丸くする。

「……なんですかそれ」

「いやほら、やっぱり賞品にはリボン掛けとくもんじゃない?」

 言いながら、動いた青雉の手がするりと俺の頭にリボンを巻く。
 賞品って何の話だ。
 まさかマルコは黄猿と俺を賭けて戦っていたりするのか。そんな馬鹿な。
 驚いている俺の頭にリボン結びをしようとしたらしい青雉が、自分が施したそれのできばえに眉を寄せる。

「……っと……あらら、案外難しい……」

「……リボンたて結びになってますよ。クザン大将って不器用ですよね、ほら、ここをもっとこう……じゃなくて!」

「ノリ突っ込みにも磨きが掛かってるねェ」

 困った顔をされたから思わず手が出てしまった。
 結ばれたリボンを解くと、解いちゃうの? と少し残念そうな声を青雉が出す。解かないでいられるか。男が頭にリボンをつけて何が楽しい。
 もう青雉には構っていられないと、俺はその場から立ち上がった。
 高い場所だから、マルコと黄猿の戦闘もよく見える。
 死なないとは思うけど、マルコは大丈夫だろうか。
 ハラハラしながら見守っている先で、黄猿の攻撃がマルコの頭を叩いた。

「うわ頭半分っ 痛そうっ! すぐ回復したけど絶対痛い! あああっ! あんな蹴りとか……酷い! ボルサリーノ大将酷い!」

「…………ボルサリーノも同じくらい食らってるんだけど」

 思わずリボンを握り締めながら声を上げると、隣に座っている青雉が少しばかり呆れたように声を出す。
 それを聞いて傍らを見やって、何を言っているんだと俺は眉を寄せた。

「光人間は火山噴火に巻き込まれたって死なないって俺知ってますよ」

 ロギア系は心配するだけ無駄だと思う。
 けれどもマルコはゾオン系なのだ。痛い思いは絶対しているし、何より怪我をされたら俺がいやだ。

「………………」

 俺の言葉に少しばかり目を丸くしてから、青雉が俺から視線を外す。
 マルコ達のほうを見やったそれに倣って、俺も砂浜を見た。
 マルコが黄猿を攻撃して、それを受けた黄猿がマルコを攻撃する。
 すさまじい戦いだ。怖すぎるけど、ハラハラするけど、目を逸らしてマルコに何かあったらいやだから、必死に目を凝らした。
 マルコ隊長、とマルコを呼ぶ俺の横で、青雉がやれやれと声を零す。

「こりゃ……負け試合じゃないの、ボルサリーノ」

 どちらかと言えば押しているのは黄猿の方なのに、何で青雉がそう呟いたのかは分からなかった。







 その後、夕方までお互いにたくさんの攻撃をし合って、怪我をしては治すマルコを見ていられなくなった俺は、思わずモビーディックから飛び降りていた。
 案外海が深くてものすごく焦った。
 どうにか辿り着いた砂浜でマルコを庇うように立った俺を見て、黄猿は目を細めた後、気が済んだのか面白く無さそうに帰っていった。
 船に戻ったらいなかったから、青雉も一緒に帰ったんだろうと思う。青雉が残していった氷はエースが全部溶かしてしまった。
 弱いくせに大将の前に飛び出した俺をマルコはすごく怒って、それでも一番最後には許してくれた。

「……でも、結局あの人たち何しに来たんだろう」

「……………………ナマエ、分かんねェのかよい」

「え?」

 よく分からないがマルコの勝利扱いになったらしく、宴を始めたモビーディックの甲板で、呟いた俺をマルコが見やる。
 不思議に思ってその顔を見上げると、怪訝そうな顔をしていたマルコは、それから小さくため息を吐いた。

「まァ、許可は出たってことだ。出て無くてもおれァ海賊だ、攫ってくだけだけどない」

「許可? 何の?」

「…………」

 何でもねェよい、と呟くマルコの意図が分からず、俺はただ首を傾げるばかりだった。



end


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