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飲みすぎにご注意 (1/2)
※勘違いされてる系主人公とローとハートの海賊団
※微妙に名無しオリキャラ注意



 久しぶりに潜水艦を浮上させ、海中で付着した色々なもので汚れているその甲板をブラシでこすりながら、そういやよ、とシャチが呟いた。

「結局、ナマエって酔うのか?」

 こないだも全然だったじゃねェか、と続いた言葉に、シャチと同じく甲板を擦っていたナマエが動きを止める。
 何の感情も見当たらないようなその目がシャチの方を見やり、ぱちりと瞬きをした。

「この間も酔っていたと思うが」

 そうしてはっきりと寄越された嘘に、いやいや、とシャチが首を横に振る。
 今まで酒を口にしなかったナマエが、酒盛りに参加したのはつい先日のことだった。
 シャチ自身は酔っぱらっていて殆ど覚えていないが、ナマエがどうやらザルだったらしいと言うことはペンギンやベポに聞いて知っている。
 あれだけの酒を水のように飲んでおいて平然としていたと言うのだから、その内臓がどうなっているのか気になるところだ。
 殆ど素面だったって話じゃねェか、と呟いたシャチに、そうだったか、と首を傾げるナマエの声音はわざとらしく、誤魔化そうとするようなそれを聞いたシャチがずい、とナマエへ近付く。
 また飲もうぜ、と笑顔を向けたシャチに対して、ナマエは相変わらず感情の読めない無表情だ。
 嬉しいとも楽しいとも感じさせないようなそれを見やり、何だよ、とシャチは口を尖らせた。

「うまかっただろ、この間の?」

 シャチには酒の良しあしはそれほど分からないが、かの船長ですら満足げな顔をしていたのだから、質の良いものもたくさんあっただろう。
 それらを飲んだだろうと見やった先で、ナマエが何かを言いたげに少しだけその口を開く。

「左舷前方、海賊船発見ー!」

 けれどもその声に重なったのは、船が海上に出ている間の見張り当番が張り上げた声だった。
 シャチが弾かれたように顔を向けた先には、確かに生意気にも黒旗を揺らした船が一隻見える。
 まっすぐにハートの海賊団の方へと向かってくるその船が放った威嚇射撃がどぼりと海に大きな水柱を上げさせて、争いになることは一目瞭然だった。

「よっしゃ! 行くぞナマエ!」

 ぽいとデッキブラシを放り投げて、声を上げたシャチが先にその場から駆け出す。
 後に残された男は、傍らに倒れたデッキブラシをその手で拾い上げ、それからもの言いたげにシャチが駆けこんで行った船内を見やった後、仕方なさそうにその場からゆっくりと歩き出した。







 『最悪の世代』を狙った生意気な海賊団は、随分と酒好きであったらしい。
 叩きのめした後略奪した積み荷を改めて、ペンギンはふむ、と一つ頷いた。
 向こうの船長の趣味だったのか、酒類は随分と上等なものであふれている。
 ナマエや他のクルー達が中身の確認が終わった荷物を倉庫まで片付けに行くのを見送りつつ、封の開いているものが無いかと検分しているペンギンの横で、ひょいと手が伸ばされた。

「一本もーらい」

 楽しげに言葉を紡ぎながら、シャチの手が箱の中の一つを持ち上げ、そしてためらいもなく封を開ける。
 それをちらりと見やったペンギンは、仕方なさそうに肩を竦め、取り分から減らすからな、とだけ言葉を投げた。
 それに返事をするようにひらりと手を振ったシャチが、瓶に口をつけて勢いよく傾け、そして身を丸めてせき込む。

「どうした?」

「あ……っまァ〜!」

 変なところに入ったのかと尋ねたペンギンの前で、ごほごほと咳を零しながらシャチが唸った。
 その目が改めて手元の瓶を睨み、何だこれ! と声を上げる。
 放たれた言葉に首を傾げて、手を伸ばしたペンギンは、シャチから封を開けたばかりのその瓶を受け取った。
 中身の匂いを軽く嗅ぎ、その甘ったるさに眉を寄せながら少しだけ口にして、すぐに瓶を降ろす。

「……一応酒か」

 呟きながらラベルを確認して、そこに記された見知らぬ名前にため息を零した。
 小さな子供なら喜んで舐めそうな甘ったるさが支配した酒は、それなりに度数は強いようだがとにかく甘い。女性なら喜ぶかもしれないが、火酒を好むこの船の人間には好かれない味わいだろう。
 シャチの手の上に開いたままの酒瓶を戻し、責任もって全部飲めよ、と酷いことを言いながら、ペンギンが箱の中を確認する。
 そして、同じラベルの酒瓶が目の前の一箱の半分程度しか占めていないことを確認し、これは次の島で売り払うか、と呟いた。
 歯が溶けそうな甘さからようやく復活したらしいシャチが、そんなことを考えているペンギンの目の前で箱からもう一瓶同じ酒を攫って行く。

「おい」

「他の奴らとか、船長にも飲ませてくる。絶対眉間に皺が寄るぜ!」

 悪戯を思いついた悪ガキの顔で楽しそうに言い放ち、シャチはその酒瓶を大事そうに抱えた。
 開いている方も片手に握っているその様子に、仕方ない奴だとペンギンが軽くため息を吐く。

「バラされない程度にしろよ、片付けがあるんだからな」

「おー!」

 ペンギンの一言にシャチはとても元気に返事を寄越したが、甲板へ戻ってきたのはナマエに抱えられた上半身のみだったので、全く役に立たなかった。







 納得の実力差があったのだから勝利は当然だが、その日はそれを名目にした軽い宴が行われた。
 あまり大がかりではないのは、食料がそれほど備蓄されていないからだ。
 それでも、敵船のおかげで酒だけは浴びるほどあり、あちこちに酔いの回った海賊達が転がって楽しそうに笑っている。
 その輪に加わっていた航海士の白熊が、ふと気付いて声を漏らした。

「あれ、ナマエは?」

 きょろりと周囲を見回すベポに、ほかのクルー達も何人かが同じように周囲を見回す。
 明るい月の照らす甲板には何人ものクルー達がいるが、そこに今ベポが名前を呼んだ男の姿は見当たらない。
 大きな酒瓶を抱えたまま、ようやく下半身を返してもらって機嫌よく酔っぱらっていたキャスケット帽子の海賊が、どこいったんら、と舌の回らない様子で言葉を零した。

「一緒にのむってやくそくしらろによー……」

「拒否されてたろうが」

 不満げに声を漏らすシャチの横で、同じように酒を飲んでいたペンギンが言葉を零す。
 そらそうらけろ、と呟きながらもやはり不満なのか、シャチは手元のグラスを齧るように大口を開けて中身を飲みこんだ。
 そんなに飲んだらまた明日が大変だよ、といつだったか二日酔いにのたうち回っていたシャチを思い出して言葉を紡いだベポが、ふと視界の端に動く影を見つけて、その鼻先をそちらへ向ける。

「あれ、キャプテン?」

 他のクルー達に囲まれるようにして酒を食らっていたハートの海賊団の首領が、瓶を一つだけ片手に掴んだまま、ちらりとその視線をベポ達の方へ向けた。

「さっきの船で手に入れたもんのなかに興味を引くもんがあったんでな、おれは引き上げる」

 そしてそんな風に言葉を紡いだローに、良い本があったの? とベポが首を傾げる。
 まあなとそれへ返事をしてから、ローの視線がベポの隣でペンギンに何やら話しかけているシャチへ向けられた。
 注がれる視線の鋭さに気付いてか、シャチの目が船長を見やる。

「明日動けなかったらただじゃおかねェぞ」

「あいあい、きゃぷてん!」

 ベポがよくやる口癖で返事をした酔っ払いに、ふん、とローが鼻を鳴らした。
 そのまま歩き出すローを見送って、その背中が完全に船内へ消えたのを確認してから、ベポの手がひょいとシャチの抱えている酒瓶を奪い取る。
 そしてシャチが持っていたグラスになみなみと一杯を注いだうえで、シャチの手が届かぬところにその瓶を置いた。

「キャプテンに怒られちゃうから、その一杯飲んだら終わりだからね」

「えー」

 航海士の言葉にシャチはまた不満そうな顔をしたものの、しぶしぶと頷いていた。




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