毎度ながらの平常通り (1/4)
※主人公視点の時だけ『▼主人公視点』と入れておきます(※とページで章?が区切られています)
▼主人公視点
シャボンディ諸島。
世界一巨大なマングローブが密集してできたと言うその素晴らしく幻想的で恐ろしい場所に辿り着いたと俺が聞かされたのは、その日の朝食の席でのことだった。
言葉も無く見つめた先で、何だよ驚けよ、とシャチが口を尖らせていたのを覚えている。
俺はこの上なく驚いてるぞ、とそちらへ言いたかったが、口の中に入っている米が邪魔をしていた。
『その島の先には魚人島があって、そこを超えたらついに新世界なんだってよ!』
にかにかと笑って楽しみだと言葉を続けるシャチのそれを思い出しながら、ちらりと視線を斜め向かいに向ける。
いつもなら寝起きが最悪で他よりずいぶん遅いのに、他の皆と一緒に朝から食事をとるなんて珍しいと思ったんだ。
今朝ローが広げていた新聞は一週間くらい前に手に入れた少し前の発行物で、その表側に書かれている一面には、とある海賊団が海軍に正面切って喧嘩を売ったと言う記事が載っていた。
つまり、俺が今いる潜水艦があの島についたというのは、『そういうこと』だ。
「…………シャボンディ諸島」
降りたくない。
心の底からそう思うのだって、仕方の無い話じゃないだろうか。
確かにあの不思議なシャボンは魅力的だが、人攫いと人身売買が横行しているこの島に降りて、俺が無事でいられる保証は全くない。海賊もうじゃうじゃいるはずだ。そう言えば確か、キッド海賊団やそれ以外にもあちこちに大量にいたんじゃなかったろうか。
それに、俺の知っている通りに『話』が進んでいるのなら、この島にはこれから海軍大将が現れる。それから確かパシフィスタとか言うのもやってくる筈だ。恐ろしいことこの上ない。
いやだ。降りたくない。
「…………わあ! ナマエ、あのシャボンってのすごいねえ!」
心の底からそう思ったのに、俺はどうしてかローの後ろを歩いていた。
すぐ横で、ベポがはしゃいだ声を上げている。
これから海底を進むにあたって、何か不具合があれば大問題になる。
だから潜水艦の点検を行うと言ったクルー達によって、俺は潜水艦を追い出されていた。
別に潜水艦の整備に詳しいわけでもないけど、何だってやるから手伝わせてくれと頼んだのに、いいから船長について行けよと拒まれてしまったのだ。
仲間に入れてほしいと言って仲間に入れて貰えないのはいつものことだけど、命に係わることなんだから聞き入れてほしかった、とため息を零しても後の祭りだった。
だったらせめて、とベポやシャチ達の近くを陣取っているのは、そこが一応の安全圏だと思っているからだ。
一人で離れて歩いてしまったら、あっさり人攫いに遭いそうな気がする。
そしてどこかのオークションに出されて売られて買われてしまったら、死ぬまで奴隷という未来が用意されている気がしてならない。それだけは嫌だ。
今の俺の望みはさっさとローが『用事』を切り上げて戻ってくれることだけど、あの『話』の通りに行くのなら無理な話なんだとも思うから、怖くて仕方ない。
「『ボンチャリ』だって! おれも買おうかなー」
「他の島では使えないから、レンタルにした方がいい」
「え? そうなの?」
憂鬱な気持ちになりながら傍らへ言うと、こちらを向いたベポから少し残念そうな声が漏れた。
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