プレゼント志願 (A) (1/2)
※勘違い主人公視点
※ロー誕生日話
※ローがとても捏造(自分の誕生日嫌い系男子)なので注意
本日は10月6日。
今日はトラファルガー・ローの誕生日だ。
だというのにあまりにもいつも通りな潜水艦内に、俺は首を傾げた。
この船の連中はさすがにその下に従っているだけあって、かの船長が大好きだ。
祝ったりしないんだろうか。
「……今日はローの誕生日だが、何もしないのか?」
だから昼食後の皿洗い当番をしながらそう尋ねた俺の横で、ふっと何かが目の端をよぎった。
驚いて思わず手を伸ばせば、手に当たったそれがぬるりと滑る。
反射的に強く掴んでから視線を動かして、俺はそれが泡まみれの皿であることを把握した。あと一歩でシンクに叩き付けられるところだったそれを、うまい具合に救出できたらしい。
ぱちりと瞬きをしてから傍らを見やれば、ペンギンが固まっている。
シャチならともかく、ペンギンが皿を落とすなんて珍しいこともあるものだ。
「ペンギン?」
片手に皿を、片手にスポンジを持ったまま見やれば、ギシリと体を軋ませたペンギンがこちらを向く。
帽子の下のその目が困惑したように俺を見て、本当か、とその口が問いかけた。
何の話だろうかとその顔を見つめていたら、勝手に顔色をさらに悪くしたペンギンが、慌てたように手を漱いで、潜水艦のあちこちに繋がっている伝声管まで駆け寄り、そのうちの一つをわし掴んだ。あれは確か、クルー達の団体部屋あての物だ。
「……非常事態! 全員集合!!」
短いながらも迫力ある召集だ。
ペンギンもちょっと怖いよなと、その背中を見ながら俺は一人でこっそりと考えていた。
※
引っ張り出されてきたホワイトボードを中央に置いて、クルー達が談話室に集まったのはそれから数分後のことだった。
皿洗いを超特急で終わらせたペンギンが、シャチと肩を並べてその中央に座っている。
俺はと言えば、一人、輪から外れた場所に座っていた。
だって俺の席が無いのだ。自分で確保したらこの端っこの椅子だった。寂しい。
「キャプテンは珍しくお昼寝してたよー、今日まだ寝てなかったみたい」
ひょこひょこ歩いてやってきたベポの言葉に『またか……』と呟いたものの、気を取り直したらしいペンギンの手がホワイトボードに改めて今日の日付を書く。
「先ほど、ナマエから非常に重大な事実を聞いた。今日は、船長の誕生日だ」
何とも真剣な面持ちで言い放ったペンギンに、クルー達がざわりとざわつく。
聞いてない、知らない、なんて聞こえてきた言葉に首を傾げたら、こちらを見やったクルー達の何人かが俺を睨み付けた。
強面の海賊に睨まれて、なんだ、と思わず身を引く。後ろにテーブルがあるのですぐに背中が角に当たってしまったが、無かったらさがれる分さがるところだ。
「ナマエの言うことだ、間違いはないと思う。そうだろう、ナマエ」
ホワイトボード用のペンを持ちながら尋ねられて、ああ、ととりあえず頷いた。
ワンピースのキャラクターたちの誕生日は、語呂合わせで決まることが多いのだ。トラファルガー・ローは10月6日。覚えやすいことこの上ない。
というより、この反応はもしかして、クルー達はローの誕生日を知らなかったんだろうか。
そんなことってあり得るのか?
困惑する俺をよそに、どうすんだよペンギン、とシャチが傍らを見やった。
「この間補給したばっかりだから食料には余裕があるけど、今から向かったってどっかの島につく前に今日が終わっちまうじゃねェか」
「海域的に浮上するのは大丈夫そうだけど、何もない海の上じゃ用意できないよ……」
シャチとしょんぼりしたベポが言い放ち、そうだそうだと他のクルー達も言葉を投げて、確かにそうだ、とペンギンもため息を零す。
なるほど、誕生日を知らなかったから誕生日プレゼントを用意することが出来なかったというわけか。
強面の海賊達が集まって相談する内容にしては可愛いものに、俺は離れた場所でそれをただ聞いていた。
俺に背中を向ける恰好で集まってるクルー達が、キャプテンが好きな酒だの本だの女だの料理だのの話をしている。
ひそひそと囁かれるそれは聞き取りづらくて、こっそり椅子を引っ張って近寄って行ってもいいだろうか、と寂しくなって考えた俺の方へ、ふいにちらりとクルー達がこちらを見やった。
視線を受け止めてそれを見返していたら、ペンギンがどうしてかホワイトボードに俺の名前を書いてぐるりと輪で囲み、そしてその視線をこちらへ寄越す。
「……一日だけ、構わないか、ナマエ」
何の話か全く見えないが、その場の全員に見つめられて尋ねられて、俺に頷く以外の選択肢などあろうはずも無かった。
※
今日がローの誕生日だと知らなかったクルー達が、ベポの指示で潜水艦を浮上させ、甲板でわあわあ言いながら宴の用意をしている。
それはいいし構わないのだが、どうして俺は座らされているんだろうか。
『ナマエはそこに座ってればいいから!』
そう声を掛けてきて、俺をこの椅子らしきものに座らせたのはシャチだった。
ソファのようで座り心地はいいが、端々に巻き付けられたリボンと肘掛けに俺の腕を結びつけたリボンが、どうしようもなく俺をいたたまれなくさせている。なんでこんな可愛らしいものに男の俺が座らなくてはならないのだろうか。
そして目の前で、祭りの用意がとても楽しそうに行われている。
これはアレか、イジメという奴か。
ついに来たのか。
元の世界で行われていたそれほど陰湿じゃないにしろ、結構仲良くされていただけに仲間外れだなんてことをされるとは思わなくて、俺は言われた言葉に従って椅子に座りながら少しばかり肩を落としていた。
一度持ち上げてから落とすというのは常套手段だというのに、すっかり引っかかった。分かっていた癖に、そんな自分が情けなくて涙も出ない。
かと言って、立ち上がって一緒に行動しようとすることもできなかった。
時々こちらをちらちらと見てくるシャチやペンギンやベポや他のクルー達が、俺が大人しく仲間外れにされたままでいることを確認しているからだ。
それに、リボンの結び目がきつくて、解くのが難しい。鋏でも常備していればよかったか、なんて思ってみても後の祭りである。
ばたばたと駆けまわるクルー達を眺めながら一人で寂しい思いをしていると、ふいに真後ろで小さく音が鳴った。
「……誰が浮上しろと言った」
そうして放たれた低い声に、口から心臓が出そうなほど驚く。
ついでに言えば何とも恐ろしくて後ろを振り返りたくない。
だって、今の声は明らかに苛立っている声だ。
誰がと言えばベポの指示だが、それを取り決めるまで話し合っていたのはクルー達だ。
「クルー達だ」
だから、椅子に座ったままでそう答えた。
本当は言葉の頭に『俺以外の』とつくが、それだと何だか責任から逃れてるみたいに聞こえるし、何より仲間外れにされてますと誰かに言うのはつらい。
俺の言葉に舌打ちをして、それから後ろから響いた足音が俺の真横に回り込む。
大人二人がぎりぎり座れるだろう椅子にどかりと腰を下ろしてきたのはやはりローだった。昼寝は終わったらしい。
「何をしてんだ、全員で」
寝起きの不機嫌そのものと言った様子で呟き、答えを求めるようにこちらを睨んだローが、そのまま俺の恰好を見て、その目をわずかに瞬かせる。
「……ナマエ、その恰好」
呟かれて、俺も自分の恰好を見た。
甲板に来るまではあの中に混じることができると思っていたので、動きやすいよう前に渡されたつなぎを着込んできたのだ。
ハートの海賊団の一員であることをこれでもかというくらい主張しているつなぎを着るのには少しばかりためらいもあったが、どうせここは船の上で、賞金稼ぎのひしめく陸でもない。俺が人質に取られて見捨てられる可能性はほぼ無いからいいだろう、と思っての行動だった。
まあ結局動くことも許されないのだから、着替えてくる必要なんて無かったかもしれないが。
そんなことを思いながらローへ視線を戻すと、まだローは俺のことを凝視していた。
あまりにも見られるので、少し不安になって首を傾げる。
→
戻る |
小説ページTOPへ