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身代わり募集中
※バナナワニが捏造すぎるので注意




 誰か教えてくれ。
 どうして俺は今、四方を巨大なワニに囲まれなくてはならないのか。
 普通のワニならまだいい。
 俺の周りにいるのは、俺の頭をゆうに越える、というより確実に俺の現在の雇い主だって一口でぱっくりいけそうな大きさの、バナナみたいな形の部分を頭に生やした、図鑑によれば海王類だって捕食対象だとかふざけたことを言うバナナワニ様だ。
 俺がいるのは彼らが何匹も一緒に飼われている巨大水槽の陸地部分で、俺と言う一人の人間が入ってきたのに気付いたバナナワニ達は今、この陸地へと集結中だ。
 あと何分かすれば、俺なんてバナナワニにまぎれて見えなくなってしまうに違いない。
 再度問おう。
 どうして、俺は今、こんな目に遭わなくてはならないのか。

「グルルルル……」

「あ、いや、俺は焼肉派なので、生肉は結構です」

 そしてどうしてバナナワニに生肉を差し出されなくてはならないのか。
 拒否を示せば、仕方無さそうに開いた大きな口が、ばくんと俺へ差し出した生肉を食べつくす。彼らにとっては、俺なんておやつにすらならないに違いない。
 恐ろしい。本当に恐ろしい動物達だ。

「グルルゥ……」

「あ、いやいや、俺は陸地専属なので、水中はちょっと」

 大きな一匹が頭を下げつつ尻尾でぱしぱしと水面を叩いたので、とりあえず俺はその誘いも断った。
 つまらなそうな目をして、俺の正面のバナナワニが俺を眺めている。
 この世界へ来てから俺は少し特殊な体質になったらしく、動物に襲われたりしなくなった。
 何せ我がオーナーのお気に入りの猛獣の世話係としてもやっていけるくらいだ。推して知るべしだろう。ちなみに、シロ(仮名)は慣れてみると意外と可愛い顔をしている。
 まあとにかく、今となってはこの上ないほどありがたい体質だ。
 与えてくれたのが神だと言うならゴッドエネルに感謝したっていい。
 ただしその前に俺をこの世界へ放り込んでくれたことに対しての謝罪をもらってからだ。
 それはそれとして、俺のこの体質を気に入ったのだか気に入らないのだかは分からないが、俺は時々オーナー・ドフラミンゴに引き摺られてあちこちの猛獣と引き会わされるハメになっている。
 今回も、一応はそのうちの一つだ。
 それだって、大概の場合、相手の動物は俺を一瞥して、その場に座るかふいと離れていくかだけで、俺が近付く前に擦り寄ってきたりなんてことは滅多に無い。
 それがどうして、今こうやってバナナワニに取り囲まれる事態になっているのか。

「グルルルル……」

「いや、ほんと、お構いなく」

 そして、どうしてこうもバナナワニ達は俺をもてなそうとしているのか。
 いくらペットとして飼われているからって、ちょっと社交的過ぎないか。海王類を捕食するほど獰猛なワニだという触れ込みは一体どこへ行ったのだ。
 まあここはワンピースの世界だし、俺の常識では考えられない事態だって起こりうるのかも知れないが、だがしかし。
 悩みつつとりあえずひたすら首を横に振る俺の前で、ひしめくように集まったバナナワニ達が揃って小さく唸り声を零した。
 あまりの恐ろしさに身の毛もよだつところだが、しょんぼりとした無数の双眸に見つめられては、たらりと汗をたらすしかない。
 だがしかし、生肉を食べるのはごめんだし、水中散歩も遠慮したいし、遊び道具らしい大きな丸太を一緒に齧ってみないかとばかりに誘われても困る。
 俺は人であって、バナナワニどころか爬虫類ですらないのだ。

「……あー……」

 ちらりと出入り口のほうを見やってみるが、一向にそこが開かれる様子はなかった。
 バナナワニの水槽を一望できるガラス窓が少し上のほうにあって、そこで我がオーナー殿とこのバナナワニ達の飼い主がなにやら話をしているのも見える。
 悪そうな顔をした二人が一緒にいると、たとえ天気やペットの話をしているんだとしても悪いことを話しているようにしか見えないんだと、俺は今日初めて知った。実際、悪いことを話しているだけかもしれないが。
 とにかく、今はこの悲しげで寂しげな顔になりつつあるバナナワニ達をどうするかだ。

「えーっと……あの」

「グルルゥ……」

 必死になって言葉を紡ぐ俺に期待するように、バナナワニ達が唸りを零す。
 どうすればこの状況から逃げ出せるか、考えて考えて考えた俺の脳裏に浮かんだのは、動物園で見たことがあるワニの姿だった。
 そうだ、そういえば彼らはよく日向でじっとしていた気がする。
 丁度いいことに殆どのバナナワニ達は俺が今立っている陸地部分に集まってきているし、明り取りの窓からはいい具合に日差しが差し込んでいるじゃないか。
 よし、これだ。

「……それじゃあ、日向ぼっこならお付き合いできますが、どうですか」

 とりあえず尋ねてみた俺の前で、付き合う、という言葉を理解したらしいバナナワニ達はそろってその目を輝かせた。
 今更だが、どうしてこのバナナワニ達は人語を理解できるのだろうか。
 飼い主の教育がスパルタなんだろうか。
 まあそこを追求しても仕方がないと、恐る恐るバナナワニ達の間を歩いて通り抜け、陸地で一番日当たりがよさそうなところで足を止める。
 のしのしと歩いて俺の後をついてきたバナナワニ達は、そろって陸の上に体を伸ばし始めた。
 同じように俺も座り込んで、はあ、とため息をつく。
 あたり一面、ワニ、ワニ、ワニだらけだ。
 ちょっと手を伸ばしてみれば、簡単にそのざらついた皮膚に触れそうなくらいの近さに、バナナワニが寝転んでいる。
 どうやら今のところ、命の危険は無いらしい。
 何匹かのバナナワニが眠るように目を閉じ始めたことだし、これなら何とか時間を稼げそうだ。
 そう把握して体から力を少しだけ抜き、俺もとりあえず、数多のバナナワニ達と同じように日光浴を行っておくことにした。







「フッフッフ! さすがだなァ、ナマエ、バナナワニ達まで手懐けちまうとは!」

 サー・クロコダイル氏とのご歓談を終えて、俺を迎えに来たドフラミンゴはいつものとってつけたような上機嫌な顔でそう言った。

「……あの、オーナー、今日はどうして俺をここへ?」

 横で少しクロコダイルが不満げな顔をしていたのは見なかったことにして、とりあえずそう聞いた俺に、そんなの決まってんだろう、と桃色のコートを着込んだ七武海が笑う。

「いくらお前でも、ここのバナナワニ達になら襲われねェかと思ったんだがなァ」

「は……」

「まあ、そうなったらおれが助けてやるだけだから心配しなくていいぜ? フフフフ!」

 楽しげなわりに、全く冗談に聞こえない。
 何だか色々な力が抜けてがくりと肩を落とした俺を、クロコダイルが少し哀れみの目で見た気がするのは気のせいではないだろう。
 そっとうつむいた俺を前に、どうした疲れたのか、なんて言いながらまだドフラミンゴは笑っている。

「…………」

 誰か、俺と代わってくれないだろうか。
 少しワニのにおいがする体でそんなことを考えてみたが、残念ながら俺の元にそんなヒーローが現れる兆しは無かった。


end


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