相手:海軍大将青雉
「…………へえ、誕生日」
「うん」
いつだったかのように会議が終わるのを待っている間、ドフラミンゴの部屋の前で大人しくしていたナマエは、現れた長身の大男へ向かってこくりと頷いた。
額にアイマスクを押し上げて、座り込んだナマエに合わせるように屈みこんだ青いシャツと白いベストの海軍大将が、そいつはめでたいね、と何ともどうでもよさそうな声を出す。
それを気にせず、ナマエは口を動かした。
「何あげたらいいと思う?」
「あららら、それおれに聞いちゃう?」
ナマエの問いかけに目を丸くしてから、青雉が首を傾げる。
うん、ともう一度頷いて、ナマエは膝を抱えたままで目の前の男を見上げた。
「わかんないときは、わかる人に聞く」
ナマエが『聞く』相手は基本的にはドフラミンゴだったが、今回はそうもいかない。
プレゼントというのはこっそりと用意するものらしいからだ。
ナマエの言葉にふうんと声を漏らして、通路に屈みこんだままの青雉が、自分の膝に肘を乗せて頬杖をついた。
「別にいいけど、おれはドンキホーテ・ドフラミンゴの好みなんて知らねェし……ナマエの方が詳しいんじゃないの? 何かほら、欲しいけどまだ持ってねえもんとか」
「ドフラミンゴ、なんでも持ってる」
どうやらきちんと相談に乗ってくれるらしい相手へ、ナマエはそう返事をした。
とある王国で王座についているドフラミンゴには、地位も名声も権力も財力もある。
そうなれば欲しいものなど自分の力で手に入れるに決まっていて、ナマエの知っている限り、ドフラミンゴは何か欲しいものを買うことを諦めたりしたことがない。
ナマエの言葉に、そりゃそうか、と頷いた大将青雉も、ドンキホーテ・ドフラミンゴがどこの誰であるかを思い浮かべたようだった。
「こりゃ強敵だなァナマエ、どうすんの」
「……どうしよう?」
問われて、ナマエも首を傾げる。
んー、と声を漏らした青雉の目が、何かを思い悩むようにゆっくりと閉じた。
真剣に悩んでくれているらしい相手を見やり、自らもまた頭を悩ませたナマエが、うーん、と小さく唸る。
せっかくの『プレゼント』なのだから、何か驚いたり喜んだりしてもらえるものがいい。
「…………大将青雉だったら、何がうれしい?」
悩んでも思いつかず、とりあえずは参考にしようと、ナマエはその視線を側へと戻した。
けれども、目を閉じたままの大将青雉は反応しない。
「?」
「…………」
「……?」
「………………」
「…………大将青雉?」
「………………スー……」
「……………………」
不思議に思ってその顔を見つめたナマエは、わずかに開かれた唇から落ちた寝息に、ぱちりと瞬きをした。
その目が少しばかりの呆れを含んで目の前の相手を見つめて、仕方なく小さなため息を落とす。
それから膝立ちになったナマエの手がそっと伸びて、海軍大将の額を飾っているアイマスクを少しばかりつまんだ。
するりとそれを下へ降ろして、目を閉じている大将青雉の顔の上半分を隠してから、そっと元の位置に座り込む。
「んー……」
もしかしたら相談する相手を間違えたかもしれないと、ナマエは少しばかり思った。
end
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