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可愛さ上限突破中
※三大将は仲良し
※くっついて性別バレ前


 赤犬はむっつりと口を曲げたまま、眉間に皺を寄せていた。
 不機嫌丸出しの海軍大将に構わず、同じ地位に就く海軍最高戦力の二人は、赤犬の執務室に置かれたソファに並んで座ってああでもないこうでもないと話をしている。

「だからァ、やっぱりこういう店がいいんじゃない。相手は女の子なんだし」

「そうは言うけどねェ〜、人ごみじゃなくてサカズキが入っても問題無い店ってェなると、その地区はちょっと悪いのが多いからァ〜……やっぱり、こっちじゃないかい〜?」

「いやいやいや、そこはただ単にボルサリーノが行きたいところじゃないの? 値段も敷居も高いし、大将の名前出しても予約取るの大変なとこじゃない」

「サカズキが使いたいんなら、センゴクさんが名前使っていいってさァ〜」

「え! マジ? 何でサカズキだけ」

「わっしも、こないだリサーチがてら戦桃丸くんと行ったよォ〜」

「……戦桃丸にご愁傷様って伝えといてくれる?」

「オォ〜、どういう意味だいクザァン?」

「いやだってそこ高級デートスポット……」

 お互いにどこから持ってきたのか情報誌を見せ合っている同僚の姿を眺めて、赤犬は小さくため息を吐いた。

「おどれら……楽しんどるな」

 低く唸った赤犬の言葉に、あらら、と肩を竦めたのは青雉だった。

「デートの相談してきたのはサカズキでしょうが。むしろ、意見交換の一つもしなさいや」

「そうだよサカズキィ〜、わっしらが全部決めちまっても仕方無いじゃないかァ〜」

 青雉に同意して笑った黄猿が、自分の持っている雑誌をひらひらと揺らして見せる。
 そうは言うが、先ほど数回述べた赤犬の意見をばっさりと切り捨ててしまったのは青雉と黄猿のほうだった。
 確かに、盆栽の展覧会や個展は少々高年齢対象のプランではあったかもしれないが、希望を述べさせた上に切り捨てておいてその言い草は無いだろう。
 眉間の皺を深くした赤犬を気にした様子も無く、青雉と黄猿は二人でまた何だかんだと話し合っている。
 二人の様子を執務机に座ったまま眺めて、赤犬はとりあえず自分が先ほどまで使っていた万年筆や朱肉、承認印を机の中へと片付けた。
 壁掛けの時計を見やったところによれば、そろそろ終業の時間だ。
 ナマエという名の少女を自宅で保護することになってから、赤犬は就業時間きっかりに本部を出ることが多くなった。
 今頃、赤犬の家ではナマエが慣れない手つきで食事を作っているところだろう。
 赤犬が頭を撫でたり手を繋いだりするだけで嬉しそうな顔をするナマエのことを思い浮かべれば、少しばかり赤犬の顔の厳しさが和らぐ。
 それを敏感に感じ取ったらしい青雉が、黄猿と共に見ていた雑誌から目を離し、どこと無く呆れた顔をした。

「何思い出し笑いしてんの、やァらしい」

「何がじゃあ」

「思い出し笑いィ〜? やらしいねェ〜」

「ねェ」

「おどれら……」

 どこかの少女達のようにわざとらしく言葉を交わす同僚二人に、赤犬の顔が改めて苛立ちを刻む。
 ぐっと握り締めたその拳が少し赤みをおびて、どろりと解けた指先がじゅうと執務机を小さく焼いた。

「あらら、ちゃんと制御しなさいや」

 それに気付いた青雉が、小さな氷の矢を執務机の焦げ跡へと放つ。
 狙い通りに当たったそれがびしりとその部分を凍らせることでこげた机を鎮火して、それを見下ろした赤犬の口からはため息が漏れた。
 元に戻った両手が自分の机に触れて、その体が椅子から立ち上がる。壁掛けの時計は、丁度終業時間を示していた。

「おどれらには付き合っておれん。わしは帰る」

「はいよ。じゃあおれ達でいくつか決めとくから」

「あとで好きなプランを選べばいいよォ〜」

 楽しげな顔をした黄猿と青雉が、部屋の主をそう言って見送る。
 今いち遊ばれている気がしながらも、部屋から追い出すために怒鳴る時間も惜しんで、赤犬はそのまま二人を残して執務室を出た。







 帰り着いた我が家はここ最近ではいつだって明るく灯を点して赤犬を迎えていて、今日もまた同じだった。

「帰ったぞ」

 玄関から入ってすぐに声を掛ければ、ぱたぱたと小さな足音が駆けてきて、靴を脱いだ赤犬の前にナマエが現れる。
 今日着込んでいるのは、つい先日つる中将から譲り受けたもののようだ。
 割烹着と言うらしいそれを着込んだナマエは、服も同様にワノ国のそれで、よく似合っているように赤犬には見える。
 海賊に切られてしまったのか短すぎる髪を隠すように長髪の鬘をつけたナマエが、笑顔を浮かべて赤犬へ手を差し出す。
 ぱくぱくと動いたその口が『お帰りなさい』と紡いだのを見下ろしながら、赤犬は手に持っていたコートをナマエへと預けた。
 ナマエは口が聞けず、文字も書けない。
 読むのも難しいらしいナマエが初めて赤犬に求めた本は、写真や図解の多かった専業主婦向けの本だった。
 見よう見まねで家事や料理をしているナマエの姿は、一生懸命で可愛らしい。
 そうやって尽くされて嬉しくない男がいるだろうか。いやいないだろうと、赤犬は一人心の内側で反語を述べた。
 日頃慣れない家事を頑張ってくれているナマエを労わりたいと思うのだって、尽くされる側としては当然の思考のはずだ。
 次の休みには、前のような失敗はせず、ナマエが安心して歩けるような場所へ連れて行きたい。
 そんな計画を赤犬がしていることなど露知らず、自分を見つめている赤犬を見上げたナマエが、不思議そうに首を傾げる。
 まるで小動物のようなその仕草に心臓をわし掴まれた気分になって、ぐ、と小さく呻いた赤犬はさっと目を逸らした。
 唐突な行動に、ナマエが驚いているのが分かる。
 それから、具合が悪いのかと言いたげにおろおろとうろたえたのまで、すぐ傍にいる赤犬には手に取るように分かった。
 ナマエは口が聞けず、文字も書けない。
 けれども、その表情はどちらかと言えば豊かで、何が言いたいのかを感じ取ることは容易なのだ。
 だからこそ、わずかに深呼吸をした赤犬は、改めて視線をナマエへ戻す。
 眉を下げたナマエは、じっと赤犬の顔を不安げに見上げて、コートを抱えたままのその手を伸ばして赤犬のスーツを掴んでいた。
 赤犬から見て随分と小さなその体との相乗効果で、先ほどよりもより小動物に見えるその仕草に、目を逸らしたくなるのを赤犬は必死に堪えた。
 顔が少しばかり熱い気がするのは、恐らくは気のせいではないだろう。

「…………大丈夫じゃあ、何でもないわ。心配せんでええ」

 そうしてどうにか低く言葉を吐き出し、慰めるようにその頭を軽く撫でれば、ぱちりと瞬きをしたナマエが素直に頷く。
 ついで、頭を撫でられたことが嬉しいのかはにかんだその様子に、赤犬はまたしても顔を逸らしたくなる衝動を堪える羽目になったのだった。


end


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