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箱に詰まった愛について
※両想いな二人
※バレ前


 何とかなった。
 ほっと息を吐いて、俺は着ていたフリルのエプロンを脱いだ。
 可愛らしいそれは、前に赤犬が俺へくれた奴だ。話によれば、青雉からのもらい物らしい。赤犬にこれを贈るって言うのは一体どういう趣味だ。いや、似合わなくて可愛いだろうとは思うけれども。
 汚さなかったエプロンを壁に掛けて食卓へ戻った俺の目の前には、昨日の夜に下拵えをして、どうにか赤犬が身支度をしてやってくるまでの間に作り上げた朝食がある。
 初めて料理をした頃よりはバリエーションのある皿の上には、俺の趣味で日本食が乗っていた。
 『ワンピース』の世界だと、どちらかと言えば『ワノ国』の料理扱いになるらしい。
 赤犬はそっちのほうが好きなようなので、問題ない。
 問題なのは、その隣に置いた四角くて大きな箱の中身だ。
 少し前に一緒に買い物へ行った時、家事向上の手助けにならないかと主婦向けの本を一冊買ってもらったら、赤犬は俺へ時々そういう雑誌を買ってきてくれるようになった。
 一体どんな顔をして本屋でそれを買っているのかはすごく気になるが、今の論点は赤犬の買い物風景ではなく、昨日赤犬が買ってきてくれた本がやっていた特集だ。
 夜に一人の部屋でそれを読んで、俺は今日いつもより一時間早く起きた。
 そして、こしらえたものがこの箱の中身である。
 少し形がいびつな気がする俵型おにぎりに、焼き魚、きんぴらごぼう、ほうれん草を入れたたまごやきに茄子味噌炒め。
 つまり、俺は赤犬と一緒に暮らして今日初めて、赤犬に弁当を作ったのだ。
 赤犬くらいになると昼は外で食べたりしているんだろうが、前に戸棚の奥で見つけた弁当箱を活用する日がついに来たというわけだ。
 一応、おかずはこれなら大丈夫だろうと思われる味に作れる料理を入れたのだが、その種類がこの数しか無かった自分には大変がっかりした。
 その代わり量は作ったので、弁当箱の中身はぎっしりだ。スカスカだとみすぼらしいだろうし、赤犬の体格は俺の二倍はあるのだから食事はちゃんととってもらいたい。
 雑誌の付録になっていた大きなハンカチで弁当箱を包んで、きちんと箸もつけた。
 後はこれを赤犬に渡すだけだ。

「ナマエ、何しとるんじゃァ」

 よし、と気合を入れて拳を握ったところで、そう声が掛けられた。
 振り返れば、いつもの格好に着替えた赤犬が、海軍のコートを片手に食事をしにきたところだった。
 すぐに近付いて手を伸ばし、いつものように赤犬のコートを受け取る。
 赤犬もいつものことだから簡単に俺へそれを渡してくれて、受け取ったそれを俺はきちんとハンガーを使って出口横の壁にかけた。
 きちんと掛けるために踏み台を使うのも、もう慣れたもんだ。さすがに赤犬がでかいだけあってコートもでかい。

「……弁当か」

 きちんとコートを掛けて振り向いた俺の目の前で、朝食の横に置かれた弁当箱を確認した赤犬がそんな風に呟く。
 その目がこちらを向いたので、俺はこくこくと頷いた。
 初めて作ったけど、ちゃんと味見もしたし、赤犬が食べられるものを入れたのだ。
 だから、できたら持っていって欲しい。
 俺は声が出ないから、そう訴える代わりにじっと赤犬を見つめる。
 俺の視線を受け止めて、赤犬が少しばかり何かを考えるそぶりをした。
 どうかしたのかと近付きながらその顔を見上げると、椅子に座った赤犬がその手をぽんと弁当箱の包みに乗せる。

「…………ありがたく持っていくとするかのォ」

 そんな風に言ってくれたのがとてつもなく嬉しくて、俺の口はだらしなく緩んでしまった。
 俺の顔を見て、赤犬が小さく笑う。
 赤犬がそんな風に笑ってくれるだけで、俺は幸せだ。
 更に、あまり美味しくは無かっただろうに、赤犬はしっかり弁当箱を空にして帰ってきてくれたものだから、どうしたらいいのか分からないくらいにときめいてしまった。
 これ以上好きにならせて一体どうするつもりだ。

 正義を背負っているくせに、赤犬は今日も罪深い奴だった。


end


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