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音貝
※主人公は白ひげクルーでマルコの幼馴染ポジション



「マルコ、プレゼントなにがほしい?」

 真っ向から寄越された言葉に、マルコはきょとんと目を丸くした。
 向かいには自分より少しだけ年上の『兄弟』がいて、すごく真剣な顔をしている。
 不思議そうに首を傾げたマルコは、それからもうじきやってくる日付を思い出して、ハッと息を飲んだ。

「マル、たんじょーびよい……!」

「そうだよ」

 とんでもなく素晴らしい日付けが来るという事実に目を輝かせたマルコの向かいで、ナマエが一つ頷く。
 そのうえで重ねられた『それで、なにがいい?』と問いを重ねられて、マルコはもう一度瞬きをした。

「なにか、くれるよい?」

「たんじょーびだから、もちろん」

 尋ねたマルコへ、どうせならよろこんでもらえるものをあげたいんだとナマエが言う。
 おれが用意できるものなら何でもいいよと言われて、マルコの小さくて賢い頭の中身がくるくると回転した。
 マルコが欲しいものなんて、それこそ山のようになる。
 けれどもそれは強さだとか大きな体だとか、おおよそ時間の経過以外では手に入りそうにもないものがほとんどだ。
 さすがにそれは駄目だろうということは賢いマルコにはちゃんと分かることなので、マルコはむっと眉を寄せて考え込んだ。

「えっと、うんと」

 何がいいかなと考えて考えて、その視界の端にふと入り込んだのは、向かいのナマエが腰から下げているものだった。

「それ!」

 マルコの指がびしりと相手の腰元を指さして、それに気付いたナマエが自分の腰を見下ろす。
 ナマエが腰に巻いているベルトにはいくつか物入れがついていて、その中にはマルコの手に余る大きさの貝殻が入っていた。
 ダイアルとナマエや他の家族達が呼ぶそれは、マルコに言わせれば何とも不思議な道具だ。
 空島というところで手に入るらしいそれらには、何かを貯める力があるらしい。
 ナマエが時たまいじらせてくれるそれが欲しかったのだとマルコが言葉を続けると、そうだったのかと呟いたナマエが軽く笑った。

「言えばやったのに」

 そうしてそんな風に言いながら、ナマエの手がダイアルを一つ取り出す。
 どうぞ、と差し出されたそれは音を貯めるトーンダイアルだ。
 さしだされたものにまたも目を輝かせたマルコの手が、そっとそれを受け取った。

「ちょっとはやいし、おさがりだけど」

「ありがとうよい!」

 喜びに満ちた声をあげれば、どういたしましてとナマエが答える。
 嬉しさのあまり、マルコはそのまま両手でトーンダイアルを弄り回した。
 音をとどめて何度でも聞き返すことのできるそれをいじれば、前に録音した音がそこから流れてくる。
 ざわざわと騒がしいそれはいつだったか宴の時にいじったマルコが録音したもので、耳に当ててその音を聞いたマルコはあの時のようにわくわくした気持ちになった。
 前に教えてもらった時のようにまたトーンダイアルに触れて、今度は音を貯めるために動かす。

「ナマエ、なにかおはなししてよい!」

「なにか?」

 言いながら貝の口を向けると、ナマエが少しばかり目を丸くした。
 何を話せばいいんだ、と尋ねられて、なんでもいいよいとマルコは答える。
 ナマエが話してくれることなら、本当に何でもよかった。
 ナマエはマルコより少し年上で、船に乗ったばかりだった頃からマルコのことを構ってくれる、マルコと一番親しい『兄弟』だ。
 どうせ録音しておくなら、ナマエの声がいいと思った。

「なんでもいいって言われても……そうだ、マルコ、まだ早いけど、たんじょーびおめでとう」

 少し困った顔をしたナマエが、それからマルコへ向けて改めてそんな言葉を口にする。
 嬉しくなって『よい』と声をあげたマルコへ、いくつになるんだと問いかけが落ちた。

「よっつよい!」

「そっか、じゃあケーキのイチゴは四つだな」

 十歳まではとしの数だけもらえるんだぜとマルコの知らない掟を告げたナマエに、それはとても嬉しいとマルコの顔に喜びが浮かぶ。
 早く誕生日がやってこないかとそわそわとし出したマルコの向かいで、ナマエがさらに言葉を落とした。

「なあ、マルコの今いちばん好きなものは?」

「ケーキ!」

「そうじゃなくて」

「じゃあおにくよい!」

「いや、たべものじゃなくて」

 一生懸命答えるマルコに、ナマエが笑う。
 相手から寄越された言葉に少しだけ不思議そうな顔をしたマルコは、じゃあ、と次の『好きなもの』を答えた。

「オヤジ!」

 マルコの『父親』になってくれたエドワード・ニューゲートは、間違いなくマルコが一番大好きな相手だ。
 きっぱりとした言葉に、やっぱそうだよな、とナマエが深く頷く。
 納得したようなその顔を見上げてから、あ、でも、とマルコは言葉を続けた。

「ナマエもだいすきよい!」

 にっこりと笑顔を浮かべて、弾むようなその言葉に少しだけ驚いたような顔をしたナマエが、それからすぐにその顔の笑みを深くする。

「そっか、ありがとなマルコ。おれも大好きだよ」

「よい!」

 返ってきた好意の言葉が嬉しくて、マルコはぎゅっとトーンダイアルを抱え込んだ。
 嬉しい嬉しい気持ちで小さな胸のうちが満たされて、くすぐったくて今にも駆けだしたくてたまらない。
 そんなマルコを見下ろすナマエもまた、とても優しい顔をしていた。


end


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