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サボくんと誕生日
※主人公は革命軍



 布団というのはもはや魔性の物体だと思う。
 ひとたび体を投げだせば、もはや肉体が溶けて一体化するのではないかと思うくらいに優しくこちらを受け止めて、俺を眠りの世界へと誘ってくれるのだ。
 だからこそその誘いに乗って、俺は今日も気に入りの枕に顔を半分埋めながら、ここ一週間の激務で培ったとんでもない疲労から回復するための癒しを受けていたわけである。

「……ぃ……おい、ナマエ」

「……ん、んん……?」

 けれどもその至福の時間は、ぐらぐらと体を揺さぶられることで終了した。
 わずらわしいがまるで振りほどける気のしない、とても強い力で揺さぶられて、仕方なく重たい瞼を持ち上げる。
 起きたばかりのぼんやりとした頭で認識したのは、俺を起こしたのが参謀総長殿であるということだった。

「……サボ……?」

 どうしたんだ、と思わず尋ねた自分の声が、何とも拙く聞こえる。
 未だに体は眠りを欲していて重たく、身動きすら億劫な俺の服を掴んだサボが、俺の体をぐいと引き起こした。
 膝をまたぐように座られているので、ほとんどベッドに座るような姿になる。

「まだ寝るな、聞け」

「いや、俺今すごいねみィの……あとじゃダメなのか……?」

 ぐらんぐらんと頭が揺れるのを感じながら尋ねるも、駄目だ、とサボは何ともきっぱりはっきりと言い放った。
 相変わらずすぎる相手に、お前な、とため息交じりの声が出た。
 何がしたいのか分からないが、できれば早く済ませて帰ってくれないだろうか。
 俺は、どこぞの参謀総長が振った仕事のせいで、とんでもなく疲れているのである。
 仕事自体はやっとめどがついたが、ものすごく疲れた顔をしていたらしく、廊下であったコアラとハックにも心配されて、休んだ方がいいよと部屋まで送ってもらった気がする。
 そういえば『明日起きたらびっくりするかもね』と微笑まれたが、一体何だったろうか。
 そんなことを寝ぼけた頭で思い返していると、ちゃんと聞け、とサボがこちらへ声を掛けてきた。

「きいてるきいてる、まじきいてる」

「よし。おめでとう、ナマエ」

「……んえ?」

 なんだかよく分からないことを言われて、口からとんでもなく間抜けな声が出た。
 しかしサボはそんな俺を気にした様子もなく、おれが一番最初だからな、とこちらを見つめて言い放った。

「コアラ達より先だ。分かったな?」

「うん、うんうん……うん?」

 念を押すような相手に頷くが、何の話なのかさっぱり閃かない。
 いつもはもう少しサボの言いたいことがわかるのだが、眠いと本当に駄目だ。人間の三大欲求の一つらしいから仕方ない。
 しかし、俺が理解していないことなど関係ないのか、用事が済んだらしいサボは、ぱっと俺の服から手を離した。
 支えを失った俺の体が後ろ向きにベッドへと倒れ込んで、とりあえず少し冷たくなってしまった枕に顔を寄せる。
 ベッドを降りたサボがかいがいしく俺の体にタオルケットを掛け直して、簡単に岩を粉砕する片手が軽く俺の頭を撫でて離れた。

「じゃあな」

 おやすみ、なんて言葉を寄越されたのに返事をすると、サボはさっさと部屋を出て行ってしまった。
 出ていく途中で灯りが消されたので、室内は心地よい闇色だ。
 一体何の用事なのかまるで分からなかったが、サボが納得したんならいいだろう。
 とりあえず起きたら用事を聞いとくか、なんて考えを脳みその端っこにひっかけて、俺はそのまま目を閉じて、改めて安らかな眠りの海に身を投じた。
 朝起きて、部屋を出てすぐに出会ったコアラに祝福されてようやく今日が〇月◇日だと知り、サボの目的に気付いたが、俺の誕生日を何番目に祝うかなんて、そんなに気にしなくても良さそうなものである。



end


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