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デリンジャーと誕生日
※主人公はデリンジャーの恋人



「おたんじょうびおめでとう、ナマエ〜!」

 きゃあ、と声をあげながら飛びついてきたわが恋人殿が、にこにこと笑いながらそんな風に言い放つ。
 確かに今日は〇月◇日で、俺の誕生日だ。
 本日は宴もかねて広間で食事を行っているところで、あちこちで酒が振る舞われていた。
 酔っ払っているらしく、機嫌よく膝に乗りあげてくる相手を抱えると、両足を回して俺の体を抱え込み、デリンジャーは俺の首に両手を回した。

「アナタがうまれてきてくれてうれしい」

「デリンジャー……」

 何ともかわいらしい台詞だ。
 俺がデリンジャーの誕生日に言ったのとほとんど同じ台詞だが、覚えていてくれたのだと思えばさらに可愛い。
 思わず動悸がして、それが聞こえたのかデリンジャーがくすくすと笑った。

「おアツいじゃねェか」

「いいだろう。俺のだ」

「とらねェよ」

 近くで飲んでいたディアマンテに言葉を放つと、肩を竦めて呆れたように言い返された。
 それに舌を出してから、ふわりと漂うデリンジャーからの酒の匂いに、そっとその背中に手を当てる。
 デリンジャーの背ビレが服を突き破っていて、かなり高揚しているらしいということが分かった。俺が目を離している隙に、相当飲んだのかもしれない。

「ナマエ、くすぐったいわ」

 さわさわと普段はベッドでくらいしか触らない背ビレをなぞっていたら、デリンジャーが身を捩った。
 ああごめんごめん、と言葉を放って、微笑む相手の顔を覗き込む。

「デリンジャーのここ触るの好きなんだ。許してくれ」

「ゆるして……あげてもいい、けどォ」

 甘えるように言葉を零して、デリンジャーがその瞳を怪しく光らせた。
 自分が『好きなこと』もしていいかと、そう尋ねてきた唇に何をしたいのか悟って、いいよ、とすぐに返事をする。

「ただ、服を脱ぐのは部屋に入ってからにしてほしい」

 それまでは服の上からで、と答えた俺へ、仕方ないわねと言葉を零したデリンジャーがその体をくっつけた。
 改めて両手と両足を絡められて、もはや椅子から立ち上がることも不可能だ。
 肩口にその頭を乗せられて、それからすぐさまやってきた痛みを受け止める。
 あぐあぐと噛みついてきているデリンジャーは、酒が入って少しぼんやりしているのか、動きが緩慢だ。
 甘噛みというには少々痛いが、本気で噛んでいるときよりも随分軽い攻撃を受けながら、その背ビレを軽く撫でる。
 俺の指を受け止めた背ビレがふるりと揺れて、可愛いそれに笑いながら酒へと手を伸ばした。
 空だったグラスへ、傍らにいたディアマンテが酒を注いでくれる。

「ありがとう」

「ああ。デリンジャーのそれは治んねえなァ、相変わらず」

 こちらを眺めて言い放つディアマンテに、治さなくていいんだよ、と答えた。
 デリンジャーが『噛む』のは、自分のものだけだ。それも特に大事なもので、小さな頃はよくぬいぐるみを噛みちぎってはしょんぼりとしていた。
 その『大事なもの』の中に数えられているなんて、これほど嬉しいことがこの世にあるだろうか。
 微笑んだ俺を見て、ディアマンテがどうしてか変な顔をする。

「お似合いだな」

「おお、なんだ、照れるな」

 なんだかとても嬉しいことを言われて顔を緩めると、褒めてねえよ馬鹿、とどうしてか罵られた。
 その間もあぐあぐと俺のことを噛んでいたデリンジャーが、俺に噛みついたまま寝落ちてしまったのはそれから少し後のことだ。


end


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