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ペンギンと誕生日
※練習シリーズより
※主人公は転生系幼馴染でペンギンの恋人



「好きだ」

 真っ向からきっぱりと寄越された言葉に、俺は目を瞬かせた。
 見つめた先にはいつもの帽子をかぶったいつものペンギンがいて、伸びてきたその両手はしっかりと俺の両腕を掴んでいる。
 掌が温かい気がするのは、恐らくペンギンもまた俺と同じく酔っ払っているからだった。
 今日は〇月◇日だ。
 それはすなわち俺の誕生日で、仲間達が俺の生まれた日を祝う、という名目で始めた宴もようやくお開きになったところだ。
 クラッカーを鳴らされていろんな贈り物を貰って、すごく嬉しいと喜んでいた俺が甲板から引き上げたのは、ほんの数分前のこと。

『ナマエ』

『ん?』

『ちょっと』

 酔いの回った頭で気分よく寝床への道をたどっていた筈が、声を掛けてきたペンギンにこうして倉庫へと押し込まれた。甲板から持ち帰った贈り物達の詰まった袋は床の上に落ちてしまっているが、割れ物は無かった気がするから問題ないだろう。
 そうして同じく入ってきたペンギンが扉を閉ざして、なんだかその仕草に自然な仕草で相手を抱き寄せようとした俺の両腕は、あえなくペンギンに捕まってしまって動かせない。

「……好きだ」

 真っ向から俺を見つめながら、もう一度囁くように言葉を紡いだペンギンが、ぐい、と俺の腕を下へ引く。
 それに合わせて体が傾いて、ペンギンの方へともたれるような姿勢になった。
 しかしペンギンはいまだに俺の両腕を放さず、支えるようにその顔を俺の肩口に当てている。
 そうなると当然ペンギンの口元が俺の耳の近くへとやってくるわけで、先ほどよりも小さな声が俺の耳へと吹き込まれた。

「お前が、生まれてきてくれてよかった」

 誕生日おめでとう、とさっき甲板でも何人にも言われた祝福を続けたペンギンに、ゆるりと瞬きをする。
 じんわりとした何かが胸を満たしたような気がして、少しだけ眉を寄せた俺は、ペンギンの頭の方へと首を傾げて、ぶつかった頭にぐりぐりと側頭部を擦りつけた。

「おい」

「手ェ離さない奴が悪いんだ」

 非難がましく声を寄越されたのにそう答えると、ペンギンがわずかにため息を零す。
 そうしてそれから俺の手が逃がされて、俺はすぐさま両腕で自分とそう体格の変わらない相手を抱きすくめた。
 俺の腕の中にいるこの海賊は、俺の『幼馴染』だった。
 そうして、『練習』と称したあれこれに付き合ってくれた上に俺を好きになってくれた、何とも可愛くて格好良くて変な奴だ。
 腕に力を入れると『苦しいぞ』とペンギンが嫌がるように唸ったが、気にせず相手を抱きしめる。ぐり、と頭をその肩口に押し付けるようにして擦りつけると、やや置いて動いたペンギンの腕が俺の背中側に回された。
 どことなくたどたどしさすら感じるそれに『練習』を思い出し、今すぐこの場に押し倒したい気持ちにはなったけれども、酒で鈍った体が少しばかり邪魔をする。万全じゃない状態で挑んで途中で駄目になってしまったら、それこそ『練習』どころじゃない。
 自分を落ち着けるように息を零すと、俺の吐いた息が耳の近くを掠めたのか、ペンギンはわずかに肩を竦めた。
 少しばかりその肩に挟まれてしまったが、逃れないままでそれを受け入れて、抱きしめた相手へ向けて言葉を囁く。

「……俺も、好きだ」

 そうっとこぼれたそれは、ちゃんと失敗せずに口から出て行った。
 一世一代の告白だったはずなのに噛んだあの日から、口から出すときには勇気を振り絞ることになった台詞だ。
 祝ってくれてありがとうだとか、そう言ってくれて嬉しいだとか、この場にふさわしい言葉は他にもいろいろとあった筈なのに、口から出て行ったのはそれだけだった。
 俺の言葉を受け止めて、少し考えるように押し黙ったペンギンの手が、ぽん、と軽く俺の背中を叩く。

「練習か?」

 そうして放たれた言葉に『違う』と答えると、そうか、とペンギンが相槌を打った。
 今度はその両腕がぎゅう、と俺の体を締め付けるように抱え込んで、二人の体がさっきよりも密着する。
 そのまま黙り込んで数分の後、そっと腕の力を緩めたペンギンが体を少しだけ離したのに合わせて顔を向けると、ペンギンがいつもの帽子の下から俺の顔を覗き込んできた。

「お前の誕生日なのに、おれを喜ばせてどうするんだ」

 馬鹿だな、と言いたげにそんなことを言って笑った相手になんだかたまらなくなって、ぐい、と近かった顔をさらに寄せる。

「誰かいんのかー? 外鍵かけるぞー……って、あ」

 噛みつくようにそのままペンギンへと口づけたのと、おざなりなノックとほとんど同時に倉庫の扉が開かれたのは、ほぼ同時だった。
 ペンギンにキスしたままで視線を向ければ、シャチが入り口からこちらを覗き込んで、何やら硬直している。
 止められないならこれ幸いとそのままキスを深めようとしたところで、ばちん、ととても痛い音と共に額を叩かれて引き剥がされた。

「この……馬鹿ナマエ!」

 続行するな! と怒ってきたペンギンは、残念ながら酔いが足りなかったらしい。
 酔った頭でそんなことを考えたのが顔に現れたのか、ペンギンはその両手で思い切り俺の頬をつねりあげた。
 頬がちぎれそうなくらいには痛かった。とんでもない誕生日プレゼントだ。



end


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