アーロン少年と誕生日
※主人公は有知識トリップ
※『海の森の彼』設定
※子アーロン注意
「たんじょーび?」
何とも怪訝そうな顔で寄越された問いかけに、ナマエはそうだよと一つ頷いた。
教えてもらった日付に間違いがなければ、今日は〇月◇日。
すなわちナマエの生まれた日だ。
もうそんな日なのかと呟いたナマエへ小さな魚人が不思議そうな顔をしたので、ナマエは今日がどういう日なのかを彼へと教えた。
けれども、教えを受けてもさらに怪訝そうな顔になっている小さなノコギリザメの魚人が、とがった鼻を揺らしながら首を傾げる。
「トクベツなのか?」
「まあ、生まれた日だってだけだけどな」
一つ年齢を重ねるだけの日で、ナマエ自身も学生時代以降はあまり気にしたことも無い日付だ。
いくつになったんだ、という問いに答えを返してから、小さな彼を見下ろしたナマエは、そういえば、と言葉を紡いだ。
「アーロンの誕生日はいつなんだ?」
「おれか? 5月3日だ!」
両手で日付を作って高らかにかざしながら宣言した小さな魚人が、シャハ、とわずかに笑い声を零した。
寄越された言葉になるほどと呟いて、ナマエは三回ほどその日付を復唱する。
「……よし、覚えた。それじゃあその日には、何かお祝いしないとな」
『その日』までの間に帰っている可能性も高いが、そうでなければナマエは少年と共にその日を迎えることになるだろう。
ナマエをこの海の森にかくまい、食事を運んでくるのは彼なのだ。
おいわい、ときょとんと眼を瞬かせたアーロンが呟いて、それからその顔ににやりと笑みを浮かべた。
相変わらずの『悪い顔』が、小さな子供には不似合いな筈なのによく似合っている。
鋭い牙を晒しているからなんだろうかと考えた先で、わかったと頷いた子供は両手を降ろした。
「じゃあ今日は、おれがオイワイしてやる」
「え?」
「おとなしくかくれてろよ。いいもん見せてやる」
きっぱりとそう宣言した小さな彼が、ナマエがいつも座っている位置を指で示し、それに従ったナマエはそこへと腰を下ろした。
それを見て満足そうに一つ頷いた子供が、それから一目散に駆けていく。
すぐに見えなくなってしまった背中を見送ってから、ナマエはぱちりと瞬きをした。
「……お祝い、してくれるのか」
よくわからないが、あの小さな魚人はナマエの誕生日を祝ってくれるつもりらしい。
一体どんな祝い方をされるのかまるで見当がつかないが、ナマエを保護して、上納金を納めさせながらもきちんと面倒を見てくれる小さな彼は、やはり案外面倒見の良い魚人のようだ。
何を見せてくれるんだろうな、と少し楽しくなって呟きながら、ナマエは大人しくそこに座って子供の帰りを待っていた。
彼の『たからもの』が入っているという箱を持ったアーロンが戻ってきたのは、それから一時間もしないうちのことだ。
『お祝い』と言いながらすべて見せるだけだったが、いつもとは違ってそれらを手に入れたときの波乱万丈な冒険の話をしてくれる小さな子供は、年相応に可愛らしかった。
end
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