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シャンクスと誕生日
※『素敵すぎて恥ずかしい』『大好きなので仕方ない』『初恋泥棒はこちら』設定



 祝いのネタなんて、探してみればいくらでもある。
 星が美しかった、良い島にたどり着いた、でかい獲物を捕まえた、宝の山を見つけた。
 その中でも一等簡単に騒げるのは『誰かの誕生日』で、そして今日は〇月◇日だ。

「おめでとう、ナマエ!」

「三回目」

 酒の入ったグラスを相手の持っているグラスに押し付けながら声を掛けたシャンクスに、ナマエがわずかに笑ってそう言葉を放った。
 月の明るい夜の甲板で、多数の料理を前に騒ぐ仲間達の輪の端に座っている彼は、いつもと変わらず目に色を残すような赤いバンダナを頭に巻いている。
 その隙間からのぞく髪はすっかり黒ばかりで、シャンクスがナマエと『再会』したときに見た、シャンクスと合わせた様な赤毛はもはや影も形も無かった。
 もともと髪色の黒かったナマエがわざわざ赤く染めていたというのは、シャンクス自身が聞きだした話だ。
 しかもそれが、ナマエに言わせればかなり小さな頃に出会い共に過ごした『とある海賊』と同じにするために選んだ色だったという話だったから、返す返す、このグランドラインにそのための道具がないことが残念だった。

「いいじゃねェか、何度祝ってもよ」

 笑顔を向けたシャンクスに、そんなことを言われても、とナマエが少し困った顔をする。
 その顔はわずかに赤らんでいて、シャンクスたちが押し付けた酒を少し舐めたらしいということが見てとれた。ナマエはどうも、あまり酒が得意ではないらしい。
 片手に酒を持ったまま、シャンクスの背中が船にもたれ込む。
 んん、と声を漏らしてその手がグラスを置き、指先が軽く自分の顎に触れた。

「あと何回言いや足りるんだ?」

「シャンクス?」

 なんの話だと不思議そうな声を出したナマエを、シャンクスの目がちらりと見やる。

「全部祝わなきゃなんねェだろ」

 シャンクスが出会い、『元の世界』へと返してやったあの日のナマエは、とても幼かった。
 そして、傍らのナマエはもう随分と大きな姿をしている。
 シャンクスの体感では五年だったが、ナマエにとってはそうでなかったと言ったのはナマエ自身だ。
 そういえば正確な数字はちゃんと聞いていなかった、ということに思い至った酔っ払いがずるりと体を横に滑らせると、シャンクスが甲板に倒れ込むと思ったらしいナマエがシャンクスの方へと近寄ってきた。

「大丈夫? 水持ってこようか?」

 自分自身も顔が赤いくせに、そんなことを言いながらシャンクスの体を支えた相手へ手を伸ばし、シャンクスの掌がナマエの腕を捕まえる。
 たったそれだけでびくりと体を強張らせたナマエに、くつりとシャンクスの喉から笑い声が漏れた。

「釣りが出る分まで祝えば問題ねェか」

 そんな風に呟いて頭を傍らの『海賊』の肩口に押し付けると、さらに困惑した気配を零したナマエが、恐る恐ると言った風にシャンクスの顔を覗き込む。

「あの……さっきからなんの話?」

 戸惑いのにじむその声を聞いて、唇に笑みを浮かべたシャンクスの目が、下からナマエの顔をじっと見上げた。
 シャンクスが見つめる先で、視線を交わしたナマエの顔が、みるみる赤みを増していく。
 どうやらナマエは、シャンクスに見つめられるのが得意ではないらしい。
 普段は普通に接するくせに、近くによって見つめるだけでこれなのだから、ついついやってやりたくなるというものである。
 いつだったか、『意地悪になった』と唸られたことを思い出して笑い声を零したシャンクスに、からかわれたと思ったらしいナマエがぐいとシャンクスの体を押しやった。
 手を掴んでいるのだから距離は取れないが、仕方なく押されるがままに座り直してから、シャンクスは掴んだままの腕を軽く自分の方へと引っ張る。
 そうすれば今度はナマエの体が傾いて、結局ナマエはシャンクスの手元から逃れられないのだ。

「あれだ、これからは毎年ちゃんと祝ってやるって話だ」

 お互いに過ごす時間が違って、あの日別れてから『今まで』のナマエの誕生日はもう取り戻せないが、これから先は話が別だ。
 そんな心を込めて言いながら、低くなった視線を合わせるようにその顔を見つめると、いまだに顔の赤いナマエがぱちりと目を瞬かせる。
 その目が何かに思い至ったように見開かれて、それから顔が伏せられ、赤いバンダナの端からのぞいている耳までもが赤くなった。

「……それは、その、ありがとう」

 俺もシャンクスの誕生日ちゃんとお祝いするよ、と続いた健気な言葉に、楽しみだなとシャンクスはまた笑った。



end


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