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チョッパーと誕生日
※主人公は麦わらの一味



「ナマエ! 今日が誕生日って本当か!」

 声をあげて部屋へ飛び込んできたトナカイ船医に、ナマエは目を丸くした。
 先日の島で買い込んだ物資が入った木箱から必要なものを取り出し、そのうちの瓶の一つをチョッパーの方へと差し出す。

「どうしたんだ、そんなに慌てて。ほら、飲んで」

「いいのか? ありがとう……じゃなくて! 本当か!?」

 差し出されたジュースに笑顔を浮かべたチョッパーは、それから瓶を持ったままで大声をあげて、佇むナマエにその目を向けた。
 下から睨み付けるかのようなその眼差しに首を傾げつつ、いくつかの荷物を抱えたナマエが屈み込む。

「確かに俺は、〇月◇日生まれだけど」

 今日の日付を口にして、それがどうかしたのか、と問いかけると、目の前にある丸い目がさらに丸く大きく見開かれる。

「なんで言わねえんだ!」

 怒った顔でぴょんと飛び跳ねたトナカイがナマエへ向けて突撃し、食らった攻撃に声を漏らして後ろへ引いたナマエは、さらに不思議そうな目を自分にしがみつく相手へ向ける。

「いや、別に今さら気にしなくてもいいかなって」

「おれ達は仲間だぞ! 誕生日はちゃんと祝うんだ!」

 この間の島の時で言っておけよと怒った声を出しながら、ぐりぐりとトナカイの頭がナマエの体に擦りつけられる。
 そのたびに立派な角がナマエの顎を擦りあげるように攻撃して、地味ながらもなかなか痛い攻撃に、ナマエはひとまず視界を行き来するチョッパーの角を捕まえた。

「教えなくてごめんな。誰から聞いたんだ?」

「ナミだ」

「ナミ……ああ」

 そういえば話したことがあったか、と思い出したナマエの体からようやくその頭を離して、おれだって聞いたことがなかったのに! とチョッパーが頬を膨らませる。
 可愛らしいトナカイに、付き合いはナミの方が長いからな、とナマエは笑った。
 ナマエは、東の海で拾われたクルーだ。
 仲間を集めていた未来の海賊王の目に留まったことは、恐らくは幸運だったのだろう。

「プレゼントだって用意できてねェんだからな。次の島でいいもの探してくるから、ちゃんと待ってろよ!」

 耳を軽く動かして、ナマエの了承を求めながらナマエを睨み付けるチョッパーに、はは、とナマエが笑い声を零す。
 ナマエからすれば不思議の詰まったこの海で、麦わらの一味の一員となってもはや久しい船医は、相変わらず何ともかわいらしい。
 懐いてくれるのはとても嬉しいことで、よしよしと帽子の上からその頭を撫でたナマエは、チョッパーの小さな体を膝に乗せながらその場に座り込んだ。
 倉庫に座り込んでは服が汚れてしまうが、後で払えばいいことだ。

「プレゼントより、一言の方が嬉しいんだけどなァ」

「ん? 一言?」

「そうそう。『おめでとう』って」

 微笑んで言葉を紡ぎながら、帽子を滑り落ちたナマエの手が、小さなチョッパーの片手を捕まえる。
 掴んだままだったジュースの瓶を受け取り、それを自分とチョッパーの間に挟んでから、ナマエの指先が蹄を軽く撫でた。

「今年はまだ、誰にも言われてないから」

 別に誕生日なんて、いちいち祝うようなものでもない。
 祝われなくたって時間は経つし年を取るのが自然の摂理で、自分の誕生日だということだってこうして言われるまで気にもしていなかった。
 それでも、わざわざ『祝いたい』と言ってくれるなら、それを断る理由もなかった。
 ナマエの言葉に、ぱちりと目を瞬かせたチョッパーが、掴まれていない片手をナマエの服へと添える。

「誕生日おめでとう、ナマエ!」

 大きな声で言い放ち、今サンジがケーキ作ってるぞ、と続いた言葉に、へえ、とナマエは声を漏らした。

「今日のおやつはケーキか。チョッパー好きだよな、おれの半分やろうか」

「えっ、いいのか!? ……じゃねェ! お前のバースデーケーキだろ!」

 むしろおれのも半分やる! と高らかに宣言したトナカイに笑ったナマエが、悲しそうな顔で有言実行しようとする可愛らしい船医の口にケーキを入れてやるのは、それから一時間ほど後のことだ。



end


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