ブルックと誕生日
※主人公は麦わらの一味でNOTトリップ主
「ヨホホホホ! お誕生日おめでとうございます、ナマエさん」
プレゼントボックスを手渡しながら歌うように楽しげな声で言われて、ありがとう、とそちらへ素直に返事をした。
今日は〇月◇日。
つまりはおれの誕生日で、朝から同じ台詞をいろんなクルーに言われている。
プレゼントも貰っていて、誕生日をこんなにたくさんの人間に『おめでとう』と言われるのは初めてのことだった。
今日は一日、とても嬉しい気分だ。
もうすぐケーキも焼けるらしくて、おやつの時間だとチョッパーがわくわくしているのは目に見えて明らかで、ほほえましいことこの上ない。
「ブルックって、結構食べるの好きだよな」
同じように嬉しそうにしているブルックを見やって言葉を放つと、ヨホ、と声を漏らしたブルックがこちらへ体を向けた。
「食べることは好きですが、どうしたんです、急に」
「だってさっきからはしゃいでるから」
サンジの料理はなんだって美味しいから当然だが、そこいらじゅうで即興の曲を弾いては賑やかにしているのだ。そんなに楽しみにしているんだろうと考えると、かなり年上なのにちょっと可愛く思えるくらいだ。
おれの言葉に、どうしてかブルックが少しばかり首を傾げた。
その手がヴァイオリンを降ろして、こちらを覗き込むようにその腰が折り曲げられる。
目玉の無い眼孔がこちらを向いたのを見て、何なら見つめられているような気がして目を瞬かせると、近くなった頭蓋骨の方から、何か勘違いをなさっていらっしゃるようですが、と言葉が落ちた。
「私が今日楽しいのは、今日が貴方の生まれた日だからですよ、ナマエさん」
「……うん?」
「もちろん、ルフィさん達のお誕生日も嬉しいですが」
言葉を紡ぎ、かたりと歯を鳴らしたブルックが弾みをつけて体を持ち上げる。
すぐさまヴァイオリンを構えて、よく聞くバースデーソングを数小節分だけ弾き、そうして弓を持ち上げた。
「貴方達の誕生日を祝えるだなんて、こんなに嬉しいことはありません」
とても楽しそうに声を弾ませたブルックに、おれは少しだけ目を瞬かせた。
困惑のあまり今度はおれの方が首を傾げて、あの、と思わず声を零す。
「おれなんかの誕生日でも嬉しいのか?」
「なんと、『なんか』だなんてとんでもないことを仰る」
ブルックがふるふると首を横に振るのを見て、おれはますます困ってしまった。
一年生き延びたことを喜ぶのが毎年のことだった。
誕生日プレゼントはおれが一年生き延びたことへのご褒美みたいなもので、『おめでとう』と言われることはあっても、まさかおれ以外の人間がおれの誕生日を本気で喜ぶことがあるなんて、そんなこと思ってもみなかった。
こういう時は何て言ったらいいんだろう、と多分眉を下げてしまったおれを見下ろして、ヨホホ、とブルックが笑う。
その手が弓を構え直して、弓を掴んでいる手の指が一本立てられた。
「さて、それではナマエさん、そろそろ何かリクエストを一つ」
「り、リクエスト?」
「ええ、貴方が好きな曲ならなんでも」
私に弾かせてくださいと言われても、おれには曲のタイトルなんてまるで分からない。
ますます困ったおれを見下ろして、なんでもいいんですよとブルックが言葉を重ねてくる。
悩みに悩んだあげく、おれの口から出てきたのはさっきブルックが少しだけ弾いたバースデーソングで、それからサンジがケーキを運んで出てくるまで、おれは何回もブルックに『ハッピーバースデー』を贈られた。
end
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