ウソップと誕生日
※主人公は無知識トリップ系麦わらの一味
ナマエは意外とわがままな男だ。
これだけ海を行く生活を続けているくせに、どんな島が好きだというどうでもいい雑談に対しての返事が、どの島も嫌いだと言いたげなものだったのだから間違いない。
思わず呆れてしまったウソップは、その話をしてからというもの、訪れる島々でナマエを連れ回すようになった。
いろんな島のいろんなものに触れさせて、どうだ楽しいだろう、と言って笑ったウソップに、ナマエだって笑い返していた。
今日もまた、機嫌よくあちこちを連れ回していたウソップは、そろそろ良い頃合かと時間を確認してから宿へ戻るために踵を返した。
今日は『時間まで連れて帰ってくるな』と仰せつかっているため、いつもより少し遅い時間帯だ。
夕食時の街並みは騒がしく、今日初めて訪れた筈の島なのになんとなく懐かしい雰囲気を感じさせる。
「ウソップ、ちょっと」
その途中で声を掛けながら軽く服を引かれて、ウソップは足を止めた。
「どうした?」
「あそこ」
問われた言葉にこたえつつ、ナマエが通りの外れを指で示す。
見やったそこには少し寂れた店が構えられていて、暗くなってともった灯りのおかげでようやく店の看板が見えていた。
金物を扱う店だと分かるそこに目を瞬かせたウソップへ、寄らないのか、とナマエが少し不思議そうな声を出す。
問われた意味が分からずウソップが視線を戻すと、ナマエは少しだけ不思議そうに首を傾げた。
「ああいうところ、好きだろ?」
いつも立ち寄るじゃないかと続いた言葉に、そうだっけか、と考え込む。
確かに、島へ降りる時は必ずナマエを連れて歩くようになってから、ああいった趣味の店に立ち寄るときも必ずナマエを連れて行っていた。
重たいものを買い込むことも多く、ウソップが持てない分を持つことになるナマエも、それなりに楽しんでいるようだというのがウソップの認識だ。そうでなければ、毎回毎回文句の一つも言わずについてくるわけがないだろう。
しかし、ああいう店に入ってしまうと、『帰ってこい』と言われた時間に間に合わない。
少しだけ眉を寄せてから、ウソップはナマエへ尋ねた。
「寄りてェか?」
少しだったら大丈夫だぞ、と言い放ったウソップに、ナマエが少しばかり不思議そうな顔をする。
それから数拍も置かずに首を横に振って、俺はいいんだ、とウソップの目の前の仲間は答えた。
「ウソップが行かないんなら、別に」
「ん? そーか?」
「でも、ウソップはああいう店好きだろ?」
だから今日は寄らないのかと思って、と続く言葉に、嘘の響きは見当たらない。
放たれた言葉に目を瞬かせてから、気付いてしまったウソップは、少しだけばつの悪い思いで軽く頭を掻いた。
「あー……もしかして、毎回無理に付き合わせてたか?」
文句の一つも言わないから楽しんでいるのだろうと思っていたが、今までウソップがああいう店に入っているとき、ナマエはまるでつまらなかったのだろうか。
そうだとしたら悪いことをした、とわずかな反省を示したウソップに、そんなことないとナマエが答える。
その目がじっとウソップを見て、その唇がわずかに笑みを浮かべた。
「ウソップが楽しそうなのを見るの、楽しいからな」
ふんわりと、穏やかな声でそんな風に寄越されて、ウソップは丸い目をぱちくりと瞬かせた。
それから、ふは、と笑い声を零して、動いたその手がばしばしとナマエの腕を叩く。
なんだか少しこそばゆい気がして、口元の緩みを引き締めることが出来ない。
「お前がそう言うんならいいけどよ! ほら、行こうぜ」
言いながらナマエを促して、ウソップは宿への道を再びたどり始めた。
今日は〇月◇日だ。
ウソップが連れて戻る誰かさんはすっかり忘れているようだが、今日はナマエの誕生日で、宿では仲間たちがナマエを祝うための準備を終わらせている筈だった。
ウソップが用意した誕生日プレゼントだって宿にあるし、今日は日付けが変わるまで騒ぐ予定なのだ。
この島もきっと、ナマエにとっての『楽しかった島』の一つになるに違いない。
「…………これでもだめか」
「ナマエ?」
「なんでもない」
歩いているところで後ろから声が聞こえた気がして振り向いたが、ナマエは『何も言っていない』とばかりに首を横に振ったので、どうやらウソップの空耳だったらしい。
end
戻る | 小説ページTOPへ