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君のいる島
※このネタの加筆修正
※主人公は無知識トリップ主



 冬島は冷えるから嫌いだ。
 秋島は落ち葉が鬱陶しい。
 春島は花の匂いの強いところが多くて落ち着かない。
 夏島は暑いのが嫌だ。

「……ワガママか!」

 呆れたように言い放った誰かさんの手刀が一撃、ぺちりと俺の額を叩いた。
 あまり痛くは無かったものの、勢いをくらってのけ反ってから、のそりと体勢を戻す。

「ウソップ、痛い」

「ナマエがワガママばっかり言うからだろーが!」

 何てことするんだと見つめた先で、眉間に皺を寄せた相手がこちらを睨んでいる。
 柔らかそうな長い鼻の先がこちらを向いていて、近かったそれに手を伸ばしたら誰かさんの両手が俺の手を両側から挟むようにして押しとどめた。
 そしてそのままぽいと人の腕を横へ払って、我が船の狙撃手殿の口からため息が漏れた。

「それじゃあグランドラインの中どころの話じゃねェだろ。今までの島、全部好きじゃねえってのか?」

 いいところだってあっただろうと、そんな風に言葉を紡がれる。
 寄越された言葉に、俺は少しだけ記憶をさらった。
 気付けばおかしな世界へやってきて、『お前面白いなァ!』なんて台詞一つで俺を船に乗せてくれた船長にくっついてきた。
 船には既に俺以外の船員が何人もいて、そのうちの一人がこの傍らの狙撃手だ。
 俺の常識では考えられないような日常が目の前にあって、いつだって新しい島には俺に言わせれば世紀の大発見と驚愕の事実があった。
 グランドラインへ入る前の島々も、この偉大なる航路に入ってからの春島も夏島も秋島も冬島も、大体俺はいつだって、傍らの彼と一緒に驚いて笑って困って嘆いて楽しんで過ごしていた気がする。

「……嫌いな島は、まァないけど」

 しいて言うなら、ついこの間まで二年ほどを過ごした島くらいだろうか。
 二年と少し前、『暴君くま』のおかげでとてつもなく酷い目に遭ったが、一応非戦闘員から戦闘員くらいにはなれたと思う。
 俺がいた島は春夏秋冬のサイクルがとても短く、住民は皆島の地下で生活しているというありさまだったが、暗くて狭いところには人間の敵になりえる危険生物はおらず、引きこもってさえいれば平穏で安全な世界だった。
 けれどもあの島には、ウソップがいなかった。

「何だよ、じゃあ本当に、ただワガママ言ってただけか」

 気にして損したぜ、とため息を零した誰かさんが、大事に育てている草花を手入れする。
 貴重な種を残すという不思議な草木は、ウソップがこの船へ戻ってすぐに用意したものだ。
 二年前、俺の目の前で弾き飛ばされていったあの日よりもたくましくなったその腕を見やってから、はあ、とため息を零す。

「ワガママじゃなくて、切実な話なのに」

「どこがだよ。寒いのも落ち葉も花の匂いも暑いのも、ナマエが我慢すりゃあいいだけの話だろ」

 駄々をこねる子供を見るような顔をしてそんな風に言い放つ相手に、どうしてわざわざ我慢しなくちゃいけないんだと非難する。
 大体、最初にそういう話題をふってきたのはウソップの方だ。

『おれ達も随分色んな島を回ったよなァ、そういえば、お前はどういう島が一番好きなんだ?』

 答えなんてただ一つだというのに、癖毛の狙撃手はまるでそれを理解してくれない。

「ウソップが一緒にいてくれるなら、考えないこともないけど」

 冬島は冷えるから嫌いだ。
 秋島は落ち葉が鬱陶しい。
 春島は花の匂いの強いところが多くて落ち着かない。
 夏島は暑いのが嫌だ。
 けれどもまあ、隣にウソップがいてくれるのならば、そして冬島の寒さや秋島の紅葉や春島の花々や夏島の熱さを俺の傍で楽しんでいるというのなら、俺だって文句はひっこめておくに違いない。

「んー? しかたねェなァ、次の島は秋島だって話だし、おれが秋島の素晴らしさを教えてやろうじゃねェか」

 花火でも用意するか、なんて言って無邪気に笑う狙撃手殿に、そうだな、と相槌を一つ。
 俺の発言はなかなか直球だったんじゃないかと思うのだが、どうやら誰かさんにはまるで通用しないらしかった。



end


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