レッドと誕生日
※主人公が無気力不老不死チートの気配
※アンリミテッドワールドRのEDネタも含まれます
※若きレッドフィールド
※台詞すらないけどオリキャラの気配
「パト?」
レッドがその一隻の船へ降り立つと、船の主がレッドの名前をそう呼んだ。
久し振りだな、なんて言ってわずかな微笑みを浮かべた海賊を見やって、そうだな、とレッドが相槌を打つ。
船に掲げるジョリーロジャーと、そうして何年も前からレッドの知るそれとほとんど変わらない見た目をした男は、『亡霊』の二つ名を持つ海賊だった。
星明りの落ちる甲板には相変わらずいくつかの棺桶が並んでいて、何かあっても船から放り出されないように固定されている。
「変わらんな」
相変わらずのそれらを眺めて、レッドはそう呟いた。
普段から、レッドはナマエを見かければ必ずその顔を見るために船へと近寄っている。
一番初めの出会いでレッドを船にあげたからか、レッドの乗船を拒絶しないナマエが、あの図々しいゴール・D・ロジャーですら穏便に船から追い出していると耳にしてからは、特に意識して船に乗り込むようになった。
そうして窺ってはみるものの、相変わらずナマエはレッドに『降りろ』と言う気配や、レッドの存在を不快に考える様子すらない。
かと言って『歓迎』の気配すら読み取らせないナマエは、相変わらず手ごわい男だ。
「今日は、貴様にこれを持ってきた」
言葉と共にひょいとレッドが懐からそれを取り出すと、星明りの下で首を傾げたナマエが、少しだけ不思議そうにレッドを見た。
「星時計?」
「なんだ、知っていたか」
グランドラインの外れの小島で見かけた小さなそれを軽く振ってレッドが言うと、昔船長が持ってたんだ、とナマエが答えた。
『船長』の言葉にレッドは自分の手落ちを感じたが、既に見せてしまったものは仕方ない。
何かを懐かしむように目を細めた相手にわずかに眉間に皺を寄せてから、レッドが差し出したそれを、ナマエが受け取る。
星時計、とナマエが呼んだそれはその名の通り、星のきらめきを宿した砂で時間を数える置物だ。
見た目は砂時計のようだが、ガラス管の中に満たされた液体は黒く、それに混じった砂が星のように輝いて、わずかな光を放つ。
今日のように月のない夜は特にその光を認めやすく、受け取ったナマエの手の上で星が煌いているのが一目でわかった。
「奇麗だなァ」
嬉しそうに呟いて、ナマエがくるりと手元のものを逆さに回す。
重力に従って星の流れる向きが変わり、下へと落ちる砂がまた星と同じくちかりと輝いた。
「船長はこれ踏んじゃって、壊しちゃったんだよ」
落としても割れなかったのに、とレッドの知らない思い出を語るナマエに、そうか、とレッドが相槌を打つ。
さらさらと星が時間を刻んで、半分ほど落ちたところでもう一度くるりとそれの上下を変えたナマエは、そこでようやく手元からレッドへと視線を戻した。
「お土産なんて、急にどうしたんだ?」
珍しいじゃないかと続いた言葉に、レッドが眉を動かす。
「今日は貴様の誕生日だろう、ナマエ」
だから祝いに来た、と言葉を続けると、ナマエは驚いたようにその目を丸くした。
レッドに聞こえた『声』も同じく、戸惑ったような音を普段より大きく漏らす。
何で、と尋ねる視線に、前に話をしただろう、とレッドは答えた。
いつだったかの邂逅で、『白ひげ』の誕生日が近いという話をしたときにそれとなく尋ねたのだ。
レッドはもちろん意図的に聞き出した情報だったが、どうやらナマエには聞きだされたという感覚すらなかったらしい。
相変わらず妙なところで察しの悪い男を見やると、驚きにその顔を染めていたナマエが、ゆるりと柔らかな笑みを浮かべる。
「なんだ、そうか」
祝ってもらえるのは嬉しいもんだな、と言いながら、堪えるように小さく笑い声を零したナマエに、ふん、とレッドは鼻を鳴らした。
たかだか誕生日を祝う程度で喜ぶというのなら、毎年だって祝ってやるに決まっている。
しかし、そんな条件では『仲間』にはできないだろうと分かっているので、そんな愚かな言葉を吐くことは出来ない。
「ありがとう、パト」
「踏んで壊さぬようにしろ」
「はは、そうするよ」
レッドの言葉にそう返して、手元へその視線を戻したナマエは、またくるりと手元の小物をひっくり返した。
休みなく落ちていく砂の星がちらちらと瞬いて、闇色の液体の中からナマエを見つめているかのようだった。
end
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