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ロジャーと誕生日
※主人公はロジャー海賊団クルー



「誕生日おめでとう、ナマエ!」

 朗らかに寄越された五回目の祝福と、ずいと突き出されたグラスに、ありがとうございますと答えて自分のグラスをぶつけた。
 何度も繰り返しているのに、そのたびに楽しそうな顔をしている目の前の相手は、誰がどう見ても酔っ払ったうちの船長だ。

「もっと飲めよ、お前のための宴だぞ!」

「飲んでまーす」

 言いつつ寄ってきた手が持っていた酒瓶を押し付けてくるのを受け取って、俺はそれをくるりと回して相手の方へと向けた。
 空いていた口から零れた酒が、慌てて動かされた相手の持っているグラスへと注がれていく。
 たっぷりと注がれたそれを引き寄せて、すするようにして口を付けた船長が立ち上がり、ふらりとそばを離れていくのを酒瓶を傍らに置きながら見送った。
 オーロ・ジャクソン号の甲板は、今日も酔っ払いで溢れていた。
 〇月◇日である今日の名目は『ナマエの誕生日』だが、昨日は月がきれいだったからで一昨日はでかい魚を捕まえたからだった。
 何であっても騒げればいいんだろうと言うことはこの数年の付き合いで分かっていることなので、もはや今さら大喜びするほどでもない。
 大小さまざまな体格のクルー達が甲板のあちこちで仲良く飲んで騒いでいるのを見ながら、自分のグラスの酒を舐めた。
 俺の傍らにはいくらか荷物が積まれていて、それらは仲間達から貰った誕生日プレゼントだった。
 中身はまだ検めていないが、酒瓶が多いんじゃないかと疑っている。どうにもロジャー海賊団の面々は酒が好きだ。海賊というのはみんなこうなんだろうか。

「ほら」

 そんなことを考えていたら、ずい、と目の前に何かが突き出されて目を瞬かせる。
 慌ててそれが何なのかを確認した俺は、こちらへ突き出されているそれが巨大なエビの背中だということに気が付いた。
 殻付きの頭ががしりと掴まれていて、食べられる部位が思い切りこちらに突き付けられている。
 掴んでいる相手を見上げると、先ほど去って行ったはずの酔っ払いが、早く喰えとエビを上下にゆすっているところだった。
 とりあえずグラスを置いてから両手で受け取って、エビの頭と尻尾の先を掴む。
 両手で掴んでも絶対に余る大きさだ。こういうのをロブスターというんだったろうか。
 俺が掴んだのを見てから、ロジャー船長は俺の横へと腰を下ろした。
 自分が渡してきたものも含まれるプレゼントの山がぐいと押しやられて、少し雪崩を起こしているが、横暴な俺達の船長には気にした様子がない。

「あの船長、それ俺の誕生日プレゼントなんですが」

「だっはっは! 細けェこと気にすんなよ!」

 とりあえず注意した俺の背中がばしばしと叩かれて、とても痛いそれに眉を寄せた。
 エビの頭が身から外れそうになって、慌てて手の角度を変える。
 ほこほこと温かいエビはとてもおいしそうだが、熱くて少し冷まさないと食べられそうになかった。
 せめて皿も欲しかった、と手元のものを見た俺の横で、あー、と声が落ちる。
 聞こえたそれに少しだけ眉を寄せて隣を見ると、予想通りそこでロジャー船長が口を開けていた。

「…………何してんですか」

「あー」

 訊ねた俺をよそに、声を出しながら口を開けたロジャー船長が、空いた手で軽く指を動かす。
 明らかに『よこせ』と求めるそれにため息を零してからエビを近づけると、がぶりとエビの身の柔らかそうなところを噛みちぎったロジャー船長が、思ったより熱かったらしいそれに体を竦ませた。
 近い島が冬島なせいか、涼しい甲板の上ではふはふと息を切らせれば、その口から白い息が零れて落ちる。

「……っだー! あっちい!」

「見れば分かりますよ」

 最終的に酒で流し込んだらしい船長の悲鳴に、呆れながら言葉を放つ。
 先ほど船長が噛みちぎったエビの断面図からはほこほこと湯気が立ち上っていて、ひとまず冷ますためにふうと息を吹きかけた。

「俺にとってきてくれたのに、なんで自分が食べるんですか」

「旨そうだったから仕方ねえな!」

 非難した俺に笑う船長は、怒りもしないし反省もしない。
 しかしそれがロジャー船長だということは分かっているので、さらにもう少し冷ましてから、俺は大人しく残りのエビを齧ることにした。
 しっかりと味付けされたエビは美味しくて、はふ、と先ほどロジャー船長がやったみたいに息を零しながら口の中身を咀嚼する。

「うまいだろ?」

「……おいひいれす」

 口の中身が入ったままという行儀の悪さを片手で押さえながら答えると、そうだろうそうだろう、と頷くロジャー船長は満足そうだ。
 いつものことだが、自分が料理しているわけでもないのにここまで自慢げにする船長というのも、この人くらいなものなんじゃないだろうか。
 もう一口、二口とエビを食べ勧めた俺の横でグラスの酒を飲みほしたロジャー船長は、さっき俺に酌をさせた酒瓶を掴んで中身を注ぎ、そうしてにかりと笑ってグラスの方をこちらへと向けた。
 何を求められているのかに気付いて、少しべたつく手で自分のグラスを持って相手へ向ければ、がちん、と少し強い力でお互いのグラスをぶつけられる。

「ナマエ、誕生日おめでとう!」

「……どうもありがとうございます」

 これで六回目だ。
 俺はあと何回この人に祝福されるんだろうか、なんて考えた俺の前で、酔っ払った船長はとても楽しそうにしていた。



end


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