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モリア様と誕生日
※主人公はモリアの部下



「モリア様〜!」

 バタバタバタ、と廊下を駆けている足音と呼びかけてくる声に、ベッドの上に転がっていたモリアが眉間に皺を寄せた。

「……ああん?」

 昼寝をしようとしたところを邪魔されて、眉間に皺を寄せながら目を開けたところで、モリアの行動を待っていたかのようにばたんと扉が開かれる。

「モリア様!」

 そうして飛び込んできながらモリアの名前を呼んだのは、モリアからすればガキとしか言いようのない年若い青年だった。
 生きる喜びにあふれた瞳に、みずみずしく血色の良い肌、服装はモリアが選んだもので、走ってきたからかその額からは汗すら滲んでいる。
 見た目の中で少しだけおかしな部分があるとすれば、その顔を斜めに走る縫い跡だった。
 瀕死のところを見つけたモリアがホグバックによって縫合させたそれは、モリアが『素材』を探しに行った先にいた猛獣によって与えられた大きな傷だ。
 モリアが現れなければ、それはそのままナマエの致命傷となっていたことだろう。

「騒がしいぞ、ナマエ」

 高い声で唸ると、ごめんなさい、と謝罪したナマエが素早くモリアへと近付く。
 ベッドの近くまでやってきた相手に舌打ちをして、ごろりと寝返りを打ったモリアが片手を枕にしてナマエを見やった。

「あのですねモリア様、すごく大事な話があるんです」

「ああ?」

「なんと俺、今日誕生日なんですよ! 〇月◇日!」

 言葉を放ちながら、ナマエは両手を組んでモリアを見た。
 何か期待するようなまなざしを向けられて、モリアの目が眇められる。

「誕生日ィ〜? なんだナマエ、プレゼントでも期待してやがるのか?」

 そんな面倒臭ェこと誰がするか、とモリアが唸った。
 日付を知っていたなら気まぐれでも起こしたかもしれないが、ナマエの誕生日なんて言う情報は、今の今までモリアの手元には無かったものだ。
 だというのにプレゼントなど求められたらたまったものではない。
 うんざりとため息を零し、用が済んだなら出ていけ、と片手を動かすと、モリア様、とナマエがモリアの名前を呼んだ。
 その目はまだまっすぐにモリアのことを見つめていて、相変わらず明るい光を浮かべている。

『おれが命の恩人だ。これからは、このおれのためだけに働け』

 瀕死の重体だったナマエが目を覚ました時、見下ろしてそう宣言したモリアに対して、ナマエはあっさりと『はい』と頷いた。
 それからというもの、こまごまと働きながら献身的にモリアへ尽くしている。
 まるでモリアの為に作られたゾンビたちのようだったが、残念ながらナマエは傷跡以外はまるごとただの人間である。
 強かったらあちこちに連れて歩いて行ってやるところだが、あまり強くないので戦いに関しては任せられないままだ。

「俺、誕生日のお祝いは物じゃない奴が欲しいんです」

「おい、だからおれは何にも用意するつもりは」

「たとえば、『おめでとう』って言ってくれるとか!」

 それだけでいいです、と笑顔を浮かべたナマエは、そのままベッドの横からじっとモリアを見つめた。
 期待に満ちた眼差しが、ぷすりとモリアの顔を突き刺す。

「……」

 しばらく押し黙り、どれだけ待っても逸らされることのない視線に、モリアは眉間の皺を深くした。
 それでも、仕方なそうに、とても不満げにその唇を動かして、そこから求められた『プレゼント』をくれてやる。

「誕生日オメデトウ、ナマエ。これでいいか?」

「…………はい!」

 声音からしていやいやながらというのが読み取れるモリアの言葉に、しかしナマエは感極まった様子でその頬を上気させた。
 とても嬉しそうな顔でモリアを見て、その顔がにっこりと笑みを浮かべる。

「ありがとうございます、モリア様!」

 弾むように言葉を零したナマエに、なんだかいたたまれない気持ちになって目を閉じたモリアは、そのまま若き部下の退室を命じた。
 おめでとうって言ってもらった! と誰かに自慢しながら離れていくナマエの声と足音を聞きながらその口がため息を零したことは、モリア自身以外は誰も知らない。



end


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