ドレークと誕生日
※転生主人公はドレークさんの幼馴染
※『結局、君は僕を知らない』『手帳日記』『手帳の裏側』設定
※とても捏造
※元の話の作成が767話(ドリィ本誌登場)掲載以前のため、実際の設定とは異なります
「誕生日おめでとう、ナマエ」
寄越された言葉に、俺は相手へと笑いかけた。
「ありがとう、ドレーク」
このやり取りは、ほとんどの〇月◇日で一度は行ってきたものだ。
かつての『記憶』の中の誕生日は忘れてしまったが、今日は今の俺が生まれた日だった。
俺も当然ドレークの誕生日を忘れないが、ドレークも決して俺の誕生日を忘れない。
俺とドレークの二人きりだが、俺達二人の部屋になった一室の端には、他のクルー達が俺に渡してくれたプレゼントが積み重なっている。
ほんの一時間前までは宴だと言って甲板でみんなと騒いでいて、しかし雨が降ってきたところで撤収したのだ。
並んで座ったベッドの端で、見やったドレークは普段とあまり変わらない顔をしているが、俺より酒を飲んでいたせいか少し酔っているらしい。
何せ、ドレークから『おめでとう』と言われるのはもう本日五回目だった。
「水飲むか?」
「いや、いい」
尋ねながら水差しを取ろうとすると首を横に振られ、さらに伸びてきた両手で両腕を掴まれて動きを中断する。
触れた指先は温かで、やっぱり随分と酔っているんだな、と俺は把握した。
その目を覗き込むようにすると、普段より少しぼんやりとした目が俺を見る。
「ナマエは、あまり飲まなかったのか?」
酔っていないように見える、と続いた言葉に、お前ほどは酔ってないかもな、と軽く笑った。
主役だからと何度も酒を注がれたが、その半分近くをドレークが引き取っていたのだから、この事態だって予想できたことだった。
雨が降ってくれなかったら、今頃ドレークは甲板で酔いつぶれていたかもしれない。
「ドレークが俺から酒をとってたんじゃないか」
そんな風に言葉を紡ぐと、ナマエが悪い、とどうしてかドレークが言葉を漏らした。
突然人のせいにされて目を瞬かせていると、じっとこちらを見つめたドレークが、俺の腕を掴んでいた手を動かす。
するりと滑って上がってきたそれが俺の肩に触れ、首を辿って頬を挟み込むようにするのをそのまま受け入れていると、俺の顔を固定したドレークの目がさらに俺の顔を覗き込んだ。
「最近気付いたんだが、どうやらおれは嫉妬深い方らしい」
ぽつりと落ちた、酔いに任せた告白に、ぱちりと目を瞬かせる。
俺の反応を見て、女々しいことは分かっているんだがと声を零したドレークが、少しだけ目を伏せた。
「出来ないことだと分かっていても、おれ以外にはあまり笑ってほしくない」
乞うように紡がれたそれに、雷に打たれたような衝撃を受けた。
まさか、ドレークがそんなことを感じていたなんて、まるで知らなかった。
しかし確かに、どちらかと言えば愛想笑いをすることの多い俺には、どう考えても不可能なことだ。
『恋人同士』になってから一度だってドレークが言わなかったのは、きっとそのせいだろう。
なんといえばいいのか分からず、ただ目を瞠っている俺の向かいで、無理なことは分かっているんだ、とドレークが呟く。
どことなく声が弱弱しくて、沸き立つ衝動を堪えるために腕が震えたのを感じる。
向かいのドレークは酔っ払いだ。ひょっとしたら半分以上が本音かもしれないが、酒に任せての発言だということを忘れてはいけない。
今すぐ目の前の相手をぎゅうぎゅうに抱きしめたいのをどうにか我慢して、俺は片手を動かした。
俺の頬に触れているドレークの片手に自分の掌を重ねて、できるだけ優しく見えるように笑顔を浮かべる。
「……こんな風に触ったり、『好きだな』って思いながら笑ったりするのは、全部ドレークにだけなんだが」
それで満足してくれないか、と尋ねると、ドレークがわずかに眉間へしわを寄せる。
酔いの回った瞳が俺をじっと見て、やや置いて不機嫌そうな声がその口から漏れた。
「…………足りないが、我慢してやる」
低い声音を耳にして、唸りたくなったのを必死になって堪えた。
指に少し力が入ってしまったが、ドレークは気付かなかったらしい。
初めて会った時からそうだったが、とにかくドレークは相変わらず、俺の脳みそが蒸発しそうなくらい可愛い奴だった。
そのうち殺されるに違いない、なんて馬鹿なことを考えたあたり、俺も案外酔っていたのかもしれない。
end
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