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キラーと誕生日
※主人公はキッド海賊団クルー




 海の上というのは暇なものだ。
 もちろんやることはたくさんあるが、その合間に出来る自由な時間が暇でたまらない。
 特に俺は他の連中のように楽器ができるわけでもなければ航海士のように海図を作ることすらできないものだから、毎回辿りつく島で暇つぶしの道具を探すのが常だった。

「ナマエ、誕生日おめでとう」

 だからこそ選んだんだろうものを手渡してきたキラーに、俺は目を瞬かせた。
 時刻は夜半、何ともありがたいことに〇月◇日だからと宴を開いてくれたキッド海賊団は、甲板のあちこちでみんなが気分よく酔っ払っている。
 時々フォークが飛んでいくのは間違いなくキッドが能力を使っているからで、たまに弾かれて飛んでくるそれから俺を庇ってくれていたキラーが寄越した箱に、じっと視線を注いだ。

「ありがとう、キラー」

 礼を言いながら包装すらされていないその箱をひょいと開けば、予想通り針山や糸の束が出てくる。
 いわゆる裁縫箱だ。

「もっと手芸に励めってことか」

 最近の俺の『暇つぶし』を知っていての行動だと把握して呟くと、気に入らなかったか、とキラーが首を傾げる。
 どことなく気落ちして聞こえたその声に、そんなことは無いよ、と答えて笑顔を向けた。

「最近ボタン作るのにはまってんだよ。ほら、キッドが自分で外せるくらいつまみやすいのがいいだろ」

 つい最近片腕が大変なことになった俺達の船長は、ちょっとだけ片手の動きが不器用になったのだ。
 包みボタンなんていうものを知ったので、中に鉄を仕込んでみたりといろいろ試してみている。
 キッドは『また趣味を変えてんのか』と軽く笑ったが、あれこれ試す俺を気にせず好きなようにさせていた。

「そのうち服の作り方も覚えようかと思ってた」

 ミシンなど無いのでひたすら手縫いだが、その分時間を潰すことが出来るだろう。
 俺の言葉に『そうか』と頷いて、キラーが軽く自分の服を引っ張った。

「なら、そのうちおれにも一着作ってくれ」

「貫頭衣でいいか?」

「カントーイ?」

 なんだそれは、と尋ねるキラーをよそにテルテル坊主みたいになったキラーを想像してみて、その様子の面白さに少しだけ笑ってしまう。
 さすがに『殺戮武人』がそんな可愛いことではだめだろう。せめてちゃんとシャツの形にしてやるべきだ。

「悪い、絶対似合わねえや、次の島で本買うよ」

「そうか?」

 お前が作るならおれはなんでもいいが、と続けるキラーはあまり服装には頓着しない方らしい。
 そんなこと言うと失敗作でも着てもらうぞ、とさらに笑ったところで、俺はキラーの袖口のボタンが外れかけているのに気が付いた。
 どこかにひっかけたんだろうそれに視線を向けると、キラーも気付いて手元を見下ろす。

「よーし、今もらったこれを早速使うときが来たな」

 言いながらひょいと箱を開けてキラーに向き直ると、キラーはその手をこちらへ向けた。
 ブレードを外しているその腕を捕まえて、袖口をつまむ。
 いったん糸を切ってからボタンをつけてやろうと手を動かしていると、俺の様子を仮面の向こうから見ていたキラーが、ナマエ、と俺の名前を呼んだ。

「もしボタンを失くしたら、お前の作ったボタンをつけるのか?」

「ん? まあ代わりが無ければそうなるだろうけど」

 しかし俺が作っているのは包みボタンだ。通常のボタンとは形が違うので、とても不格好なことになりそうである。
 これは普通のボタンも作ってみろと言うことなのか、と視線を向けた先で、そうかとキラーが一つ頷く。
 仮面があるせいで何を考えているかわかりづい相手に首を傾げつつ、俺はそろそろと手を動かしてキラーの袖口にボタンを縫い付けた。
 それから後、海戦のたびにどうしてかボタンを失くしてくるキラーのシャツのボタンがちまちまと俺が作ったものに変わっていったのは、案外キラーがそそっかしい奴だったという証なのかもしれない。



end


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