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ジャブラと誕生日
※主人公はCP9



「ほら、喰え」

 そんな発言と共にぼとんと目の前に布袋を落とされて、俺は目を瞬かせた。
 資料を読み込んでいた俺の向かいにはわが同僚殿が佇んでいて、その手が放した袋は俺の足先を掠めるようにして床に落ちている。

「『喰え』って言いながら床に落とすのはどうなんだ」

 不衛生じゃないかと眉を寄せつつ袋を手にした俺は、その中身を覗き込んでから目を瞬かせた。
 思わず顔をあげて、今この袋を寄越した男を見つめる。

「ジャブラ……お前ついに食の嗜好まで狼になったのか……」

「そんなわけねェだ狼牙!」

 思わず憐れんでしまった俺に対してジャブラがお怒りだが、そうでなかったらこの袋の中の生肉はどう説明するつもりなのか。
 悪魔の実の能力者となってから、時々体の反応などが狼のそれに近くなる時があるとは聞いていたが、生肉。俺だって必要に駆られれば食べるだろうが、いやしかし、生肉。

「どこからこんな……」

 しかも誰かさんは任務だったはずだと考えて見つめると、仕事は終わったに決まっているだろうとジャブラが鼻で笑った。

「ちょうどいた野生動物がいい肉だってんで狩ってきたんだよ。お前、今日誕生日だ狼牙」

 はっきりとしたその言葉に、そういえばそうだったか、と思い至る。
 今日は〇月の◇日。確かに間違いなく俺の誕生日だ。
 任務に出ていた筈なのに、そんなことを仕事が終わってすぐ思い出してくれたんだとすればなかなか嬉しい気がする。
 だがしかし、誕生日プレゼントに生肉を選択するというのはどういう了見なのか。
 野生生物なのか人間なのかはっきりして頂きたい発言に少し頭痛がして、やれやれと首を横に振りながら袋を持って立ち上がった。
 持っていた資料はひとまとめにしてデスクへ置き、上にペーパーウェイトを乗せる。
 あともう少し読み込んで捨てるつもりだったが、この生肉をどうにかする方が先だろう。放っておいたら、せっかくのプレゼントが傷んでしまいかねない。

「ごめんなジャブラ、俺できれば調理した肉を食いたいんだけど、これ焼いていいか?」

「お前のもんだからな、好きにしろよ。おれだって生肉は好んで食わねえからな!」

 眉を吊り上げて発言するジャブラに、はいはい分かったと答えて手を伸ばす。

「おい、ナマエ?」

 服を掴んで引っ張りながら歩き出すと、俺の歩みにつられて歩き出したジャブラが少しばかり困惑した声を出した。
 それを背中に聞きながら、片手に持ち直した袋を軽く揺らす。

「こんなにたくさん喰ったら胃もたれしちゃうだろ。付き合えよ」

「ああん? 軟弱な腹してんなァ」

「俺人間だからなー」

「おれだって人間だって言ってんだ狼牙!」

 ぎゃんぎゃん喚くジャブラに笑って、そのまま部屋を出た。
 目指すはキッチン備え付けの一室である。食事は給仕係の仕事だが、必要に迫られれば使えるようになっているのだ。本当に、この建物は至れり尽くせりである。

「何作るかなァ……あ、そうだ。これ、何の肉なんだ?」

 どんな調理にしようかと考えながら尋ねた俺に、ジャブラは俺の知らない生き物の名前を言った。名前から調理方法を推察するのは不可能そうだ。
 もう全部ステーキにしてやろうと心に決めて、ジャブラの服を掴んだままで移動する。
 焼いている途中で匂いにつられたらしい何人かが集まって、今年の俺の誕生パーティーはケーキすらないまま肉のみでとり行われた。
 まあ、代わりにいろんな相手から『おめでとう』を言われたから、それで十分というものだ。



end


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