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スパンダムと誕生日
※主人公はCP9



「およびですかーちょーかん」

「おせェぞナマエ!」

 呼び出されてのそりと執務室を訪れると、そんな非難の声が上がった。
 トイレ行ってたんですすみません、と適当に謝りつつ視線を向ければ、我らがCP9の長官殿がいつもの通り執務机に座っている。
 長官の執務室である室内も、基本的にはいつも通りだ。
 しかし一部分だけ違うのは、長官の執務机の上だった。

「……どこの誰から貢がれたんですか、長官」

 丁寧に包装された色とりどりのプレゼントボックスが、大量にその机の上に並んでいる。少し大きな可愛らしいシロクマのぬいぐるみまで座っているが、抱えているのは誰がどう見ても金塊だった。
 明らかな『贈り物』に、どこの誰がこのちょっとお間抜けで可愛い長官に取り入ろうとしているのかと、少しばかり眉を寄せる。
 悪い芽は摘んでおかなくてはならないから、さっさと名前を聞いて相手を確認したほうが良いだろう。
 懐からメモ帳とペンを取り出して、はい名前、と聴収するために相手を促す。
 俺の言葉に不満そうな顔をしてから、誰からも貰ってねえよ、と長官が嘘としか思えない言葉を放った。

「またまた。大丈夫ですよ、悪さする奴でなければ放っておきますから」

 後で面倒になるの嫌でしょう、と続けながら視線を向けた俺に、長官が舌打ちを零す。

「だァから! 誰からも貰ってねえって言ってんだろ!」

 言葉と共に机の端をばしんと叩かれて、その拍子にシロクマが金塊ごと机の外へ向けて傾いた。
 手を伸ばしてそれを受け取り、金塊を先に机へと戻す。
 片腕にシロクマを抱えたままで、お怒りの長官を見やった俺は首を傾げた。

「ええ……? じゃあ、どうしたんですか、こんなに」

 『誰からも貰ってない』のなら、これは全て長官が用意したということになる。
 一体何を考えているのかと見やった先で、よくぞ聞いた、と途端に笑顔になった単純なスパンダム長官は、俺を見ながら両掌をこちらへ向けた。

「お前にだナマエ、好きなもんを選べ!」

「………………は?」

「誕生日だろうが! このおれ様が選んでやったんだ、もっと喜べ!」

 きっぱりと言い放たれて、ぱちりと目を瞬かせる。
 俺の戸惑いを分かっていないのか、長官の目は期待するようにこちらを見ていた。

「あー……誕生日」

 言われてみれば確かに、今日は〇月◇日だった。
 しかし、CPにとっての誕生日なんて、ほとんど価値の無いものだ。
 潜入任務の長い者の中には『設定』の誕生日と本来の誕生日がごっちゃになってどっちだか分からなくなったと笑っている奴だっていたし、俺だって言われて初めて自分の誕生日を思い出した。
 さすがにうるさい長官が騒ぐのでその誕生日を忘れたことは無いが、まさか長官の方が俺の誕生日を覚えていたなんて思わなかった。
 そのまま視線を執務机の上へと向けて、あふれるプレゼント達を見る。

「じゃあ、これ全部俺のですか?」

「ばァか、一個だけくれてやるって言ってんだろ!」

 余ったのは他の奴らにくれてやるんだよと言い放った長官は、どうやら調子に乗って買いまくってしまったらしかった。
 そんなのもはや誕生日プレゼントでも何でもないのではないかと思ったが、この中から一番に選ぶ権利を貰えたと思えばいいんだろうか。いつもだったらきっとルッチから呼ばれるはずだ。
 少し考えてから、俺は自分が抱えたままだったシロクマのぬいぐるみを揺らした。

「それじゃ、俺はこれで」

「ああん? おい、それはおまけでこれがメインだろ?」

 言いながら金塊を指さされて、別に金は要らないんで、と答えて首を横に振った。
 あっても困らないが、どうせ任務と訓練ばかりの毎日だ。給金を使うことさえほとんどない。
 俺の発言に、長官はとても怪訝そうな顔をした。
 それを見てから手元のぬいぐるみを持ち上げて、自分の視界の中で二つの顔が並ぶように持ち直してみる。
 そうしてからうむ、と一つ頷いて、長官の前でシロクマを抱え直した。

「ちょっと似てるんで、後でラクガキでもしときます」

「はっ!? おい、このおれがそのクマと似てるってのか! いや、それよりもおれに似てるクマにラクガキするってのァどういう了見だ!」

 きゃんきゃんと長官が騒いでいるが、自分のものをどうしようと俺の勝手でしょう、と笑って耳を貸さないことにする。

「プレゼントありがとうございました、長官。用事がそれだけなら失礼しまーす」

「あ、おいこらナマエ!」

 さらりと礼をして、まだ騒ぐ長官を放っておいた俺はそのままシロクマと共にスパンダム長官の執務室を後にした。
 数日後、自室に置いたシロクマがパンダになったことを知っているのは、ほんの一握りの人間だけである。
 もちろん、長官は知らない。



end


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