- ナノ -
TOP小説メモレス

コビーと誕生日
※『メントルへの慕情』設定
※コビーくんと先輩海兵



「ナマエさん、お誕生日おめでとうございます」

 言葉と共にずいとコビーが包みを差し出すと、向かいに立っていた海兵が目を丸くした。
 驚いたようにしてから、ああそうか、とその口が言葉を零す。

「今日は◇日か」

「はい!」

 どうやら今日という大事な日付を失念していたらしいナマエへ、コビーはこっくりと頷いて答えた。
 作業時間の終わった昼下がり、昼食の前にきっと会えるだろうと思って持ち歩いていた包みなのだ。
 ぜひとも受け取ってほしいとさらに持っていたものを突き出すと、軽く笑ったナマエが、ありがとうとそれを受け取る。
 近付いてきたその手からはふわりと胸のすくような匂いがして、相変わらず目の前の人は薄荷の香りだなとコビーは思った。
 ナマエと言うのは、コビーより随分と上の肩書を持つ海兵だ。
 本来なら、つい最近雑用係から卒業したばかりのコビーがおいそれと話しかけていいような相手ではない。
 それでもコビーはナマエへとよく話しかけているし、ナマエのことについても詳しかった。
 今日、〇月◇日がナマエの誕生日だと知っていたのだって、以前に聞いた話をちゃんと覚えていたからだ。

「中身は何だろう」

「開けてみて頂けたら、すぐにわかると思います」

 手元の箱を軽く揺らしたナマエの問いにコビーが答えると、なるほど、と頷いたナマエがそれを小脇に抱え直した。
 今目の前で開けられると思っただけに、不思議そうな顔をしたコビーへ向けて、ナマエは微笑みを浮かべる。

「家に帰ってからのお楽しみにしておこうかな」

「えっ その、そんなに大げさなものでは……」

「プレゼントなんてすごく久し振りなんだぞ。開けるのが勿体ないくらいだ」

 とても嬉しそうに、機嫌よく言われて、コビーは肩を縮こまらせた。
 もちろん『悪い』ものは買っていないが、箱の中身はナマエがよく食べている味と同じ薄荷味のキャンディだ。
 フルーツキャンディを作っているところが発売した『薄荷味のみ』の包みで、普段食べているものなら迷惑にはならないだろう、という考えからコビーはそれを買った。
 ペンやペーパーウェイト、ネクタイやネクタイピンなどとも悩んだが、ペンやペーパーウェイトは今使っているものがあるだろうから下手をすれば邪魔になるだろうし、ネクタイやネクタイピンなどは相手の服装のセンスを否定していることになりやしないだろうかと考え込んだからだ。
 ナマエには少しでも不快感や嫌な思いをさせたくなくて、というのは建前で、ほんの少しでも嫌われたくないというのがコビーの本音だった。
 だって仕方ない。コビーは向かいのこの海兵が好きなのだ。

「あんまりにも嬉しかったからおやつをやろう」

 優しく笑ったナマエがその手をポケットへと入れて、そこから拳を引き出した。
 手を出してと言われるがまま、両手を出したコビーの手の上で、ぱらりと飴の包みが落とされる。
 相変わらずの薄荷味を受け取って、コビーはそれを大事に仕舞った。

「今から昼食なので、後でいただきますね」

「お! 偶然だな、俺も昼食時間だ」

 一緒に食べよう、という誘いにコビーが元気に頷くと、はははは、とナマエが楽しそうに声を立てて笑う。
 そのまま二人そろって食堂へ向かって、その日コビーはナマエと共に昼食を食べた。
 いつもと料理人は変わらないはずだが、その日のランチメニューは特別美味しい気がした。



end


戻る | 小説ページTOPへ