コラソンと誕生日
※コラさんとドンキホーテファミリー主人公は付き合っている
「……んん?」
気持ちよくソファで寝ていたら、ふと顔に何かが触れる感触があった。
むずがゆいそれに眉を寄せて身じろぎ、カサリと音を立てたそれに目を閉じたままで手を触れる。
掴んだそれが紙だと気付いて目を開いたおれは、寝起きのぼんやりとした視界にとりあえずそれを収めた。
「……何、『たんじょうびおめでとう』?」
紙に記されたいびつな文字を読み込んで、ぱちりと瞬きをする。
それから少し考えて、今日という日付を思い出したおれは、ああ、と声を漏らしながら起き上がった。
「そうか、おれ今日誕生日……って、うわ」
呟きながらソファの上に座って、ふと背もたれの方を見やった先にあった人影に声を漏らす。
しゃがみ込んだおれの恋人殿が、ソファに背中を預けていた。
おれの手元のメモを寄越したのは彼らしいと把握して、軽く笑ってソファの上に膝立ちになる。
「コーラソン、どうした?」
しょぼくれた犬みたいになっている相手に声を掛けながら覗き込むと、おれのそれに気付いたらしいコラソンがこちらを向く。
その胸元がべったりと汚れてしまっているのを見て、またどっかで転んだのか? と軽く笑ってからソファの上で立ち上がった。
そのままひょいとソファを乗り越えて後ろへ降り立ち、今度はコラソンを正面から見やる。
ドフィの弟であるこの『コラソン』は、随分なドジっ子だ。
ドフィいわく昔からだったという話だから、演技とかキャラ付けではなく、本気で不運に好かれた男なんだろう。
煙草を吸えば引火するし、何かすれば椅子を蹴倒すし、長い手足をもつれさせたかのように転ぶことだってよくあることだ。
今日もそれかと正面で屈み込み、おれはコラソンの顔を覗き込んだ。
「ケーキ潰したのか?」
誰かが買ってきたのか、コラソンの胸元を汚しているのは白い生クリームとケーキのスポンジだった。
よく見れば、先ほどはコラソンの体で遮られて見えなかった床の上に、皿とフォークとぐちゃりと潰れた塊がある。
ここまで持ってきて潰したのか、と考えてから、自分の手元にあるメモを思い出したおれは、コラソンがしょぼくれている理由に思い至って首を傾げた。
「もしかして、おれにだった?」
誕生日はケーキ、だなんてかわいらしい子供時代を過ごしたことはなかったが、ドフィについて行ってだんだんと強さと『ファミリー』に慣れ親しんでからは、それが常識の内に刷り込まれた。
うちにいるガキどもはみんな誕生日をケーキで祝ってもらえるし、ドフィの時は他の誰よりでかいケーキが振る舞われる。
そして多分、コラソンはおれの分のケーキを預かって、昼寝をしているおれのところまで持ってきてくれたのだ。
もちろん寝ているおれの口につっこむためではなかっただろうが、結果としてケーキはコラソンの服に喰われてしまったわけなのか。
おれの予想と問いかけにこたえるように、コラソンが頷く。
サングラスに目元を隠したまま、笑っているようなメイクを施しているのにしょんぼりとしているのはよく分かって、よしよし、とその頭を軽く撫でた。
「そんなに気にするなよ、おれも気にしないから」
「…………」
「元気出せって、ドジは今に始まったことじゃないだろ?」
ドジっ子なところも可愛いよ、と続けて笑いかけたおれに、サングラスの向こうから視線が突き刺さったのを感じる。
口のきけないコラソンは、その目がとても雄弁に心を語る。
そのせいでかよくサングラスで隠されてしまっているが、これだけ近ければいやでも視線が分かるというものだ。
そのことに気付いているのか気付いていないのか、どちらにしてもコラソンを慰めることにしたおれは、屈んだままでそっとコラソンへと距離を詰めた。
近付けば甘い匂いがコラソンの方から漂ってくる。今日のケーキはとんでもなく甘かったらしい。
においだけで胸やけしそうなそれはコラソンの胸元にべったりで、着替えさせねえとなァ、なんて考えながらさらに顔を近づけて、コラソンの口にただ触れるだけの口づけを贈る。
「ほら。プレゼントならこっちの方貰っとくから」
子供だましなキスをしてから『落ち込むなよ』と笑ったおれに、寄越されたのはコラソンからの殴打だった。
励ましてやろうとしただけなのに、なんてひどい仕打ちだろうか。
後でドフィに抗議してやろうと思ったが、そのあとで今度は向こうからキスをされたから、全部許すことにした。
仕方ない。おれの恋人は、とても可愛いのである。
end
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