ガープと誕生日
※無知識転生主人公と幼少ガープ
ガープは時々とても理不尽だ。
「待たんか、ナマエ!」
「待つかー!」
後ろからの怒号に返しながら、必死に足を動かす。
急いだ俺が逃げ込んだのは森の中だが、後ろに迫る気配を感じてさらに前へと駆けて進んだ。
『この世界』に生まれ直して早数年、必要にかられて強化された体は走っても息切れせず、確実に体力が備えられてきていることを俺に教えている。
しかし、同じように生まれている後ろの追跡者も同じなのだから、全く油断できない。
「なんで逃げる!」
「もっとまともなプレゼントにしろ!」
寄越された問いかけに言い返して、木々をかき分けながら沢の方へと駆け抜けた。
水は冷たく冷えているが、気にせず駆けてわたりぬけた。
それから振り向けば、ちょうど茂みから現れた俺の幼馴染殿が、憤怒の顔でそこに立っている。
村にやってくる熊や虎を素手で撃退してしまう、恐るべき少年の両手は拳を握っていて、怖ろしいことこの上ない。
「まともなプレゼントだろ!」
「拳がか!?」
せせらぎを挟んで寄越された言葉に、同じ距離から言い返した。
今日は〇月◇日。
なんと俺が『この世界』に生まれた日だ。
そして、幼馴染である向かいのガープが、『プレゼントをやろう』と言って笑いかけてきたのが半時間ほど前のこと。
『構えろ』と言われてことの次第を把握した俺は、すぐさまその場から逃げ出した。
「違う、喧嘩だ!」
「なお悪い!」
体を鍛えるのがガープの趣味なのは分かるが、どうして自分との手合わせが俺への贈り物になると思ったのか。
先日の、巨躯の海兵と楽しんでいたガープの誕生日を思い出すに、当人にとっては嬉しいプレゼントだったんだろうが、自分と俺を同じに見るのはやめて頂きたい。
どんだけ自分に自信があるんだと問いたいし、俺がズタボロになる未来しか見えない。
「ガープに殴られたら俺死んじゃうだろ!」
「死なんわ!」
声を張り上げた俺へガープは言い返してくるが、全く信用ならない。
今にもこちらに駆けてきそうな相手を指さして、俺は高らかに宣言した。
「今日は村に戻んねェから、諦めろよな!」
村にいてはガープの『祝福』を受ける羽目になりかねないのならば、村にいなければいいのだ。
さすがに夜には襲撃に来ないだろうから、暗くなるまで逃げ延びればいいだろう。
俺の言葉にむっと眉間に皺をよせ、なんじゃと、と声を漏らしたガープの足が前へと踏み出す。
「おれのプレゼントが受け取れんのか、ナマエ!」
「受け取れるかァ!」
ばしゃりと水を跳ねさせた相手に跳び上がり、そう言い返して、俺はすぐさまその場から逃げ出した。
そんな恐ろしいプレゼントだというのなら、それよりも『おめでとう』の一言が嬉しいっていうのに。
本当に、ガープは理不尽な奴だ。
end
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