お互いの認識では
※このネタの加筆修正版
※身体的退行をしたトリップ主は悪魔の実の能力者
※オカピに対する拡大解釈的捏造が含まれます
※海賊無双3のドリームログ軸
例)CP9のままだけどカクが最近キリン人間になった
俺が、一番目を合わせることのできない人は、かの大監獄にいる。
「マゼラン署長ね」
俺の言葉を聞いて、そう呟いたのはカリファだった。
どうしてわかったのかと顔を上げると、分かりやすいもの、と呟いたカリファが少し困った顔をする。
「あれだけ顔に出していたら、諜報員としてはやっていけないわよ、ナマエ」
「そ……そうか?」
「そうよ。それに、いつも用事を見つけては会いに行こうとするじゃない」
更にそう言葉を重ねられて、う、と思わず声を漏らした。
確かに、大監獄なんていうあの恐ろしい場所へ俺が近寄るのは、あの人の姿を一目見たいからに他ならない。
だって、仕方ない。
わけもわからないままこの世界へと落っこちて、幼くはなったものの妙に丈夫になった体で生きていこうとしたらどうしてかCP9の見習いになって、うまいか不味いかも分からない食事ばかりをとり、荒んだ日々を活かされてきた。
飽食の時代を生きていた俺にはあまりにも辛すぎる現実に、ひときわ輝いて見えるのがあの人なのだ。
思い浮かべただけでじわりと口の中が潤ったのを感じて、ふいとカリファから目を逸らす。
俺のその様子を眺めて、カリファがこちらの顔を覗き込んできた。
「ねェ、ナマエ。どうしてそんなに、マゼラン署長が気になるのかしら」
優しく、子供に問いかけるように寄越された言葉に、ちら、とカリファへ視線を向けながら、その、と小さく声を漏らす。
「……すごく、うまそうに見える」
ぽつりと呟いた俺の小さな告白に、少しばかりカリファが目を瞬かせた。
それから少しばかり眉を寄せて、その目がじっとこちらを見つめてくる。
「…………『うまそう』とは、また随分と趣味の悪い言い方だ」
もの言いたげな彼女の心を代弁するように落ちてきた言葉に俺が反応するより早く、がしりと俺の頭が掴まれた。
ぐり、と人の頭がい骨に指をめり込ませようとでもいうような力が込められたそれに、声も無く上を向く。
俺の頭を掴んでいる誰かさんが、少しばかり身を屈めてこちらを見下ろしていた。
いつの間に近寄ってきたのだろう。全く気配を感じなかった。
じとりとこちらを見つめてくる眼差しを受けて、目を瞬かせた俺の真上で、最近飼いだした『ハットリ』がいない分凄味の増した顔のルッチが言葉を紡ぐ。
「その『うまそう』な毒人間に、食らいつきたいのか?」
馬鹿にしたような声音を寄越されて、そんな襲い掛かるみたいな真似はしない、と返事をする。
「一噛み二噛みくらいさせてほしいけど、マゼラン署長はそういうの嫌いそうじゃないか」
「そうだな、向こうは性嗜好も『まとも』だ」
俺の言葉へ一つ頷いて、変なことを言い放ったルッチの指へさらに力が入った。
妙に丈夫になってしまった俺の体は軋みの一つも上げないが、そろそろジャブラだったら痛いと喚いているんじゃないだろうか。民間人だったら頭蓋骨が割れているかもしれない。
頭を掴まれて平然としている俺をしばらく眺めて、一つ舌打ちをしたルッチが、一度俺の頭を後ろへ強く引き、うわ、と声を漏らした俺の体を床へ倒してから手を離す。
「馬鹿馬鹿しい」
苛立たしげに共にそんな言葉を口にして、ルッチが屈めていた身を起こす。
ぴんと背中を伸ばし、その目線を外の見える窓へと向けたルッチに、俺もそちらを見た。
CP9という隠された組織が過ごすこの建物には、外から見えない中庭に当たる位置に演習場ともいえる広場がある。
窓の外に見えるそれはちょうどその広場で、今はカクとブルーノが使っているところだった。
ついこの間キリンになれるようになった誰かさんが、可愛らしいキリン姿でシャカシャカと両足を振っている。
道力の強いカクに引かれたのか、ルッチの足がそちらへ向いて、すたすたと歩き出す。
「……何だか、ルッチの奴、機嫌が悪いな」
開け放たれた窓へ向かうルッチの背中を見送りながら、床に倒れたままで俺は呟いた。
そうね、と返事をして、カリファが俺のすぐそばに屈みこむ。
スカートで屈むだなんていうハレンチなことをしているのに気にしていないのは、俺が最初に保護されたのがカリファの父親で、カリファとは殆ど兄妹のようにして育ったからだろう。
『妹』のパンツなんて、全く興奮しない。
というよりも、CP9としての教育の中で、性欲というものを削り取られてしまったような気がしないでもない。
「貴方が、マゼラン署長に噛みつきたいなんて言うからよ」
呆れたような声を落とされて、俺はちらりとカリファを見やった。
俺の横に座るカリファの手がこちらへと伸びて来て、先程ルッチにめちゃくちゃ掴まれた頭を軽く撫でる。
別に痛くは無かったのだが、小さい子供に『いたいのいたいのとんでいけ』とやるようなそれを断る義理も無いかと好きにさせつつ、俺は口を動かした。
「……ひょっとして、豹には『噛みつく』って行為に何か意味があるのか?」
ルッチは動物系悪魔の実の能力者だ。
とても強く凶暴なレオパルドには、幾度となく噛みつかれたことがある。
一応の手加減をしているのか、それとも俺がおかしいくらい頑丈だからか、喉元に食いつかれたり肩口を骨ガムのようにがじがじと齧られたこともある。
別に痛くは無いから気にしていなかったが、ひょっとしてあれにも意味があるのか。
俺がそう呟いたところで、ぺち、とカリファの掌が俺の額を叩いた。
「お馬鹿さんね」
カリファの方が年下の筈なのに、まるで姉が弟をいつくしむような声を出されて、俺はぱちりと瞬きをした。
それからゆっくりと、ルッチがいる方を見やる。
窓わくを乗り越えていったのか、窓の外へ出ていってしまったルッチは、こちらへ注意を払っている様子がない。
ただカクとブルーノのやり合いを見ている離れたその背中を眺めてから、むくりと起き上がった。
それから考えてみるが、やっぱり、俺がマゼラン署長を『うまそう』だと言ってルッチが機嫌を悪くする理由が分からない。
確かに、他のCP9達にはマゼラン署長が『うまそう』には見えないだろう。
だってあの人は毒人間、普通の人間なら簡単に殺せてしまう能力の持ち主だ。
CP9は毒に耐える訓練だってしているからそう簡単には死なないだろうが、わざわざ苦しみを味わいに行くはずもない。
だがしかし、俺は別だった。
あのつらい訓練を過ごした日々、食の楽しみを求めて散策した森の中で見つけた小さな果実。
恐ろしくまずかったあれを食べてから、俺の味覚は変わってしまったのだ。
食べた実は恐らくは悪魔の実で、そして動物系の能力だった。
初めて体を変化させたとき、馬なのかシマウマなのか悩む風貌をしている自分に困惑したのも懐かしい。
俺が生まれて育ったかつての世界で珍獣扱いされていたあいつだ、と気付いてから様々な文献で探したが、肉食獣と違い、『オカピ』が強いという話は見かけなかった。
しいて言うなら食べるものは人間にとって毒性の高いものが多いという程度で、どうやらそのせいで俺の食の嗜好に毒物が含まれるようになったらしい。
食べても毒がまるで効かないのは強みかもしれないが、それだけだ。
本当は報告した方が良かったのだろうが、変身した姿があんまりにもあれだったものだから、誰にも言えていない。
だってルッチにあの姿を見せて、鼻で笑われたらと思うとつらすぎる。
いっそカクのように開き直ってその姿で戦う術を模索すればよかったのかもしれないが、好きな子には格好悪いところを見せたくない、そんな小さな男心だ。
はあ、とため息を漏らした俺の耳に、ふと中庭側でのルッチの声が届く。
「おい、カク。お前のその姿は最高だが、戦闘力はどうなんだ?」
聞こえてきた言葉に、思わず息を飲んだ。
おれで試してみろ、なんて言いながらぶわりと体を動物化させて、ルッチがカクの方へと歩いていく。
それを追いかけるようにそちらを見やって、俺はぱちぱちと瞬きをした。
「……どうしたの?」
俺の顕著な反応に、カリファが傍らで不思議そうな声を出している。
それを放ってしばらくルッチの背中を眺めて、カクとの模擬戦が始まったのを見届けてから、俺はカリファへ視線を戻した。
「……今の、聞いたか?」
「え?」
「ルッチが、キリンが『最高』だって言ったの」
何ということだろう。
まったく知らなかったが、ルッチはどうやらキリンが好きだったらしい。
小さな頃から訓練漬けで、絵本すら与えられなかった幼少期だ。
俺が知っているいろんな昔話はこっそり話したりもしていたが、『そんなのただのもうそうだろう』と早々に斬って捨てたルッチは、俺がカリファたちへ話し始めると俺の膝を陣取ってすぐに眠るようになってしまったし、こそこそとやっていた『お絵かき』だって一緒にはやらなかった。
子供らしいところなんて何一つもないと思っていたのに、大きくなってもあんな可愛いところを持っていたのか。
いや、それよりも、ルッチが『キリン』が好きだと言うのが一番いい。
思わず拳を握ってしまった俺の様子に、ぱちりと瞬きをしたカリファが、ええそうね、と返事をする。
「でも、あれは……」
「そうだよな、言ってたよな!」
何かを言いかけたカリファの言葉に重ねて、俺はそう言葉を零した。
これはもしかすると、俺の動物化した姿だって受け入れてもらえるかもしれない。
だってそう、あれもキリンの仲間だ。どう見たって馬かシマウマの仲間だが、実はキリンの仲間なのだ。
今日あたり、ルッチの部屋にでも飛び込んで見せてみよう。
他の誰よりも先に、ルッチに。
人目の無い深夜とかがいいかもしれない。よし、そうしよう。
『最高』とまでは言わなくても、少しは好かれるかもしれない。
そんなただの想像でしかない未来を想像してにへら、と笑った俺の横で、カリファが不思議そうに首を傾げる。
深夜、部屋に忍び込んだ俺はどうしてか自分の秘密をさらけ出す前に捕食者状態の大きな豹に飛びかかられてしまったのだが、もしかすると俺の体はすでに草食動物としての匂いを発していたのかもしれない。
end
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