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勘違い主とローとハートの海賊団
※『勘違い主が狙われる』
※『勘違い主』シリーズネタ
※トリップ系主人公は勘違いされている
※捏造島出現中
※ほぼシャチ



 ハロウィン諸島なんて島にポーラータング号がたどり着いたのは、つい昨晩のことだ。
 乗り込んでみた港町はハロウィンと言う祭りで一色で、菓子を強請って悪戯をばらまく島民ばかり。
 面白いなと笑ったハートの海賊団の船長が、きらりと瞳を輝かせて言ったのだ。

『お前ら、ナマエに悪戯を仕掛けて来い』

 わざわざ名指しにしたのは、島に入ってから酒場に移動するまでの間、たまに遭遇する悪戯を仕掛けてくる島民の軽い悪戯に、ナマエだけが引っかからなかったからだろう。
 アイアイとシャチが返事をしたのだって、先ほどペンギンに連れられて酒場から他へ買い出しに行った男の無傷な姿を見送っているからだった。
 菓子をくれなければ、なんておねだりの口実である『悪戯』だが、海賊がわざわざ菓子を強請る必要もないので、さっそくその悪さに使えそうな道具を買い込んで、数人の仲間達で決行した。

「キャプテン……駄目ですよこれ……」

 そうして一日が経ち、昨日と違う酒場で注文を終えたところでがくりと伏したシャチに、だらしがねェな、とローが不機嫌そうに言う。
 そうは言うけどもと顔を上げて、シャチは傍らの船長を見やった。

「見てほしいこの耳! ひげ! あと肉球!」

「完全に猫だな。シャチの癖に、どういうつもりだ」

 いつも被っている帽子を外して抗議するシャチの頭には、ぽこんと三角の耳が生えている。
 両の頬からもぴんと何本かひげが生え、さらには晒した掌に肉球まであった。
 ネコネコフルーツなる不思議フルーツを使った悪戯アイテムは、相手に猫の体の一部を生えさせるという摩訶不思議なものだった。
 面白そうだと数を買い込み、さっそくナマエの口へ入れてやろうとしたのだが、海のように青いその菓子をナマエは口にしなかった。
 それならと料理に混ぜてみたりなんだかんだしたというのに、全て何故か避けられ、気付けばシャチの口に入っているという不思議だ。

「取ってやろうか」

 刺青の入った指を動かしながら船長に言われて、明日には消えてると思うんでいいです、とシャチは引いた。

「ベポの奴はナマエにスタンプつけようとして自分が汚れたし、ペンギンが料理に舌がオレンジになる肉団子混ぜたらそれ食べたのイッカクだったし」

 食べたら変なことが起きる食品に、色が変化するインクやら、くしゃみを引き起こす粉末やら、この島には変なものがたくさんある。
 だからそれらを使って悪戯を仕掛けたが、そのことごとくが躱されてしまったことを告げるシャチに、ふん、とローが鼻を鳴らす。
 その目がちらりと離れたテーブルに座っている男を見やり、それを追うようにシャチもそちらを見やった。
 白かった毛皮の半分をまだらに緑色にしたミンク族が、ナマエと食事をとっている。袖までめくっているので、自分の体がどのくらい汚れてしまったのか話しているのだろう。
 いつもならローの近くにいるあの二人が離れた場所に座っているのは、単に先程まであのテーブルがローの席であったからだ。
 所用で立ち上がり戻ったローがシャチの傍に座ったのは、『命令』の進捗を尋ねるためだろう。
 だからこそ訴えるシャチに、やる気が足りねえ、とローが唸る。
 何故かその顔は少しばかり剣呑で、やはり昨日に比べて不機嫌な相手に、シャチは少しばかり首を傾げた。

「船長、今日、何かありましたっけ」

 今日は一日、ローの近くで過ごしたはずだが、何かローの機嫌を損ねるようなことはあっただろうか。
 この島は平和で、近くには海賊も海軍もいない。
 むしろ海賊に友好的な島民が多く、可愛い悪戯を仕掛けてくる子供はいたが、悪質なことをされた覚えもない。
 ナマエはずっとローの近くにいて、目の届かないところに行って悪党をひっかけてくるようなことも無かった。
 それともシャチが見ていないところで、何か不愉快な目に遭ったのだろうか。
 もしもそうなら犯人を特定しないとなと、そんなことを考えたシャチの前で、眉間にしわを寄せたローが左手を動かした。
 ずっとテーブルの下にいたそれがテーブルの上へ乗り、掌を晒すようにくるりと裏返る。
 ローの剣士らしい掌に、何故だかピンクの落書きがあった。
 丸いスマイルはそのまま、ハートの海賊団が掲げるシンボルマークだ。

「……新しい入れ墨とか?」

「んなわけねェだろうが」

 思わず尋ねたシャチに、ローは即座に否定した。
 いつの間にかついていたと告げた辺り、ローにとっても不本意なものであるらしい。

「調べたところ、数日で落ちる塗料らしいが、描かれた覚えもねェ」

「ええ……」

 なんとも恐ろしい話をされて、シャチは思わず声を漏らした。
 いくら何でも、シャチたちの船長が子供の悪戯に気付かないわけがない。
 となれば相当の手練れがローの掌に落書きをしたということだが、そんな相手が島にいるかもしれないという事実は何とも恐ろしい話だ。

「ログ貯まるまで、おれかペンギンかナマエを横に置いといてくださいよ」

「おれ一人で対処できる」

「記念コイン探すの手伝うんで」

「仕方ねェな……」

 言葉を重ねたシャチに、ローが渋々頷く。
 よしとそれに声を漏らし、ペンギンにも話しておくかと視線を巡らせたシャチは、ベポの傍から席を立つナマエの姿を発見した。
 ベポは隣へやってきたペンギンへ話しかけているところで、その腕を軽く叩いたナマエが何事かを口にして、それからシャチ達の方へとやってくる。

「どうした、ナマエ」

 近寄ってきた相手を見上げたローが声を掛けると、気分転換しにきたんだとナマエが答えた。
 そのまま椅子が引かれ、シャチの横へ腰を下ろす。
 そのことにローが眉間へ皺を寄せたのがシャチにも見えたが、ローの隣には椅子が無いのだから、そこは勘弁してほしいところだ。

「シャチのそれはいつ治るんだ」

 ナマエ自身は気にしていないのか、ローの視線が刺さるのを機にした様子もなく尋ねられて、シャチは片手を自分の頭にやった。
 頭の上に生えた一対の耳は、本来ならナマエの頭の上に生えていたはずのものだ。
 だがまさかそれを言って『悪戯』のネタばらしをするわけにもいかず、一日くらいで戻るらしいぜ、とシャチは答えた。
 それを聞いてそうかと答えたナマエが、どことなく気遣わしげな眼差しをシャチへ向ける。

「おかしな悪戯をされたな」

「ん……んー……おう、まあな!」

 寄こされる言葉が何となく棒読みだった気がするのは、シャチの気のせいだろうか。
 もしやずっと悪戯をしようとしていたのがバレているのかと、そんなことを考えたシャチの前で、シャチの置いてあったグラスがナマエの手に掴まれる。
 ついでやろうと珍しく酌までされて、たっぷりと酒の入ったグラスがシャチの手元へ戻った。
 寄こされたそれを握りしめて、ありがとな、と笑ったシャチが立ち上がる。
 ひげが生えたからかそれ以外の理由でかは分からないが、ローの方から少しでなく強い視線を感じる。
 最近になってシャチもようやく気付いたが、どうやらローは、ナマエと一番親しい存在でいたいらしい。
 だからシャチがあまりナマエに構われると不機嫌になる。

「ペンギンの奴にちょっと用事があるんだった。ナマエ、おれの代わりにキャプテンに酌しててくれよ」

 この場からは逃げるべきだとひげにびりびり感じたので、グラスを手にしたままでそう言葉を落としたシャチは、そそくさとナマエの隣を離れた。
 距離を取ってからちらりと見やると、シャチが言ったとおりにするつもりらしいナマエが酒瓶を手にして、ローのグラスを引き寄せている。
 そのことに少しばかりほっとして、足を動かしたシャチは、そのまま無理やりペンギンとベポの間に入り込んだ。

「うわ」

「何するんだ、おい」

「いやー、ちょっと仲間に入りたくて?」

 テーブルに腰かけるようにしながら間に挟まったシャチに、ペンギンが呆れた視線を向けてくる。
 椅子に座ったらいいのにと笑ったのはベポの方で、その手が先程ナマエの座っていた椅子を引き寄せ、シャチの方へと動かした。
 そうやって動いたその腕に、ちらりとピンク色の何かを見つけて、おや、とシャチが眉を動かす。

「ベポ、ちょっとそれ」

「え? それ?」

 思わず指さしたシャチに、不思議そうにして身じろいだベポが、自分の腕を見下ろす。

「あれ? 何これ」

 そうして今気付いたとばかりに声を漏らしたベポが、自分の腕をごしごしと擦った。
 けれども、オレンジのつなぎの袖をめくって露出している毛皮の上には、緑色の千両に混じってピンク色のものが付着している。
 くるりと丸く、そうして笑っているシンボルマークは、ベポのつなぎに記されているものと同様で、つい先ほどローの掌でも見たものだ。
 目を瞬かせたシャチの横で、おい、と声を漏らしたのはペンギンだった。

「同じのがお前の手にもついてるぞ」

「え?」

 そうして言われた言葉に、シャチの目が自分の掌へと向けられる。
 グラスの内側にちらりと見えたピンクに、慌ててグラスをテーブルへ置く。
 そうして見下ろしたうちの片方、グラスを持っていた手に、肉球を横断するようにして、ベポの腕にあるのと同じものが記されていた。
 先程までは無かったものだ。

「あれ?」

「お揃いだ。どこでつけたの、シャチ?」

「いや、おれは……」

 ベポがシャチの手を覗き込み、そんな風に言う。
 それへ応えようとして記憶をたどったシャチは、自分がテーブルに置いたグラスを見やり、そうしてそれから、つい先ほど離れてきたテーブルを見やった。
 ローと話をしているナマエが、それに気付いたようにちらりとシャチを見る。
 基本的に表情がまるで変わらない男だが、その目が何となく笑ったような気がして、シャチは気付いた。

「…………やられた……」

「うん? 何が?」

「おいシャチ、どうでもいいからテーブルから椅子へ降りろ」

 テーブルに座ってガクリと肩を落としたシャチの両方から、そんな風に声がする。
 ぺちりと太ももまで叩かれてしまったので仕方なくテーブルから浮かせた腰を椅子へ落ち着けながら、シャチの口がため息を零す。
 この島はハロウィン諸島。
 乗り込んでみた港町はハロウィンと言う祭りで一色で、菓子を強請って悪戯をばらまく島民ばかり。
 どうやらそれに悪乗りして悪戯を仕掛けて回っている海賊に、ナマエと言う男も混ざっていたらしかった。


end


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