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マルコとクルーと寒い/小話
ささささささ寒い!!!
ということで寒い日のマルコとモブクルーの小話





「なんでお前の火は熱くないんだよ」

 面と向かって放られた文句に、マルコは呆れた顔をした。
 その体が青い炎を零して、あたりを照らしながら消えていく。
 翼に変えた片腕を振るえば風に溶けるようにたなびいた炎の塊が目の前の男の体をかすめて、体に触れたそれを見やった男の顔には先ほどよりもさらに深い不機嫌が浮かんだ。

「熱を寄こせ、熱を」

「おれの炎が燃えるもんだったら、今頃お前は火だるまだよい」

 わずかに震えながらの言葉に、そう答えたマルコの口から白い息が漏れる。
 極寒の冬島へ入港したモビーディック号は、当然ながら随分とひんやりしてしまっている。
 陸にはしゃいで船を降りる連中もそれなりに温かい恰好をしているし、マルコも今日はきちんと着込めと念を押されていた。
 片腕に掛けたままのコートをひょいと広げて目の前の相手を包むようにしてやると、それを受け止めた男がみの虫のようにコートの中で身を縮める。

「寒ィんなら船室から出てこなけりゃいいのによい」

 マルコの目の前の男は寒がりだ。
 すぐに寒い寒いと声を上げて自分の為の『巣』に逃げ帰るのがいつものことで、冬島での活動の範囲は極端に狭い。
 今日だってしっかりと着込んでいるが、そもそも風の通る通路まで出てくることがおかしい。
 けれどもマルコの発言に、久しぶりの島なんだから見たいに決まってるだろうが、と男は言い放った。
 そう言うものかと少しばかり納得したマルコの前で、しかしその足が船内の方へつま先を向ける。

「だけどもういい。通路でこんなに寒いんだ、外に出たら死んじまう」

「この程度じゃ死なねえよ」

「いや死ぬ。もうお前の恰好を見ているだけで寒い」

 きっぱり言い放ちつつ身を震わせる男に、マルコはちらりと自分の今の恰好を見下ろした。
 男にコートをやってしまったマルコの姿は、普段に比べて着込んではいるが、しっかり体に毛布まで巻き付けているこの『家族』に比べれば軽装もいいところだ。
 見ているだけで寒いというのもまあ分かるか、と肩を竦めて、歩き出した男の隣にマルコも並ぶ。

「……ん? どうしたよ」

「いや、おれもさすがに寒ィから、あったまらせてもらおうかと思ってよい。足が寒い」

 どうせこの男が向かうのは、寒い場所に停泊するときにこもる倉庫の一室だ。
 勝手に自分の『巣』にしてしまっているそこは、随分と温かいものであふれている。
 以前船に乗っていた猫のミンク族が残していったものも多く、ダイアルを使ったこたつやそれ以外の毛布に埋もれてぬくぬくと過ごしているこの男もまた、ただの人間であるくせにまるで猫のようだった。
 マルコの言葉を聞き、少しだけ不思議そうにした男が、その視線をマルコの顔へと向ける。

「……お前はほら、足よりほかにもう少し気遣っておくべき場所があるだろ」

「どこ見てんだよい」

 じっと頭に視線を注ぎながら寄こされた言葉に、マルコはひとまず傍らの男の体を蹴ってやったのだった。



end
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