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ドフラミンゴさんとその彼氏 彼氏から見たドフラミンゴさんはとても可愛い ドフラミンゴさんが少し嫉妬をする表現がありますので注意 「ドフィ?」 親しいものにだけ許された名を呼んだ男に、ドフラミンゴは一瞥も向けない。 いつもの笑みすらないその顔は、額に青筋すら浮かばせて、苛立ちを噛み締めていることは明白だった。 どうしてそんなに怒っているんだろうかと、男は不思議で仕方ない。 何なら今すぐ駆け寄り抱きしめてよしよしと自分より大きな相手の背中を撫でて慰めたいくらいなのだが、男の体は男の意思ではもはや一歩も動けなかった。ドフラミンゴの『悪魔の実』の能力によるものだ。 男はドフラミンゴを愛している。 この世の何よりと頭に告げても過言ではなく、真っ当だったはずの人生から転がり込んだ異世界で悪の道を突き進んでいるのだって、目の前で椅子に座っている彼がそれを求めたからだ。 男同士だの年齢差だの血筋だの生まれだの境遇だの、さまざまな方向から見て不釣り合いとしか思えない男のことを、ドフラミンゴも好いてくれているということも知っている。 そうでなければ今頃、男の首と胴体はドフラミンゴの糸によってお別れをしているだろう。 何せ、目の前の彼は今、恐らく、男の『浮気』を疑っているのだ。 道端で蹲っていた女に気まぐれで声を掛け、具合が悪いという相手を適当に近場の診療所へ送り届けた。 今日は集金がうまくいっていて、とても気分が良かったからだ。歩みがおぼつかない様子だったから、介助もしてやった。 しかしそれを途中から目撃していたらしいドフラミンゴは、診療所から出てきた男をそのまま拘束した。 そして、今に至る。 「なァ、ドフィ」 唯一自由に動く口で、媚びるように相手を呼ぶ。 かけられた声にもドフラミンゴは無反応で、やはり視線の一つもくれない。 けれども、その手にある本は先程から一ページだって捲られず、椅子に座っている彼が男のことを気にしていることは丸わかりだった。 分かりやすく怒っていることを示すその様子が、人の気を引こうとする不機嫌な子供のようでとても可愛いと、男がそんな失礼なことを思っていることをドフラミンゴは知らない。 とはいえ、にやにやと笑ってしまっては大事な相手がさらに不機嫌になることは明白であったので、男は困った顔を作りながらどうにか口元のゆるみを引き締めた。 「次からは、ああいうのは無視するから。ごめんな。俺が大事なのはお前だけだよ」 だから許してくれないかと、声が言葉を綴る。 数秒を置いて、椅子に座ったままのドフラミンゴが、何かを手繰るように片手を動かした。 それに合わせて男の体が歩みをはじめ、ほんの数歩でドフラミンゴの座る椅子へと近づく。 傍らまで近寄ったところでまた足の動きがぴたりと止まり、男はドフラミンゴのすぐそばで直立する格好になった。 バランスを取ろうと肘を動かし、両手が自由なままなのに気付いて目を瞬かせた男の傍で、椅子に座ったドフラミンゴの手が、まったく読み進めなかった本を閉じた。 「別に、テメェがどこの女に触ろうが気に掛けようが、抱こうが構わねェ」 低い声がきっぱりと言い放つ。 無関心を装った言葉だが、しかしその声音こそが雄弁に、『許さない』と語っている。 考えと真逆の言葉を吐いているように見える相手に男が目を瞬かせると、椅子の背もたれに背中を預けてから、そこでようやく、ドフラミンゴの視線が男の方を見た。 サングラスの向こうから注ぐ視線が、男の顔を突き刺す。 「テメェにとってのおれが、その程度だったってことだろうからな」 フフ、と笑い声を零したのに、その顔は全く笑っていなかった。 数秒その顔を見つめてから、男がゆっくりと口元を緩める。 「……イヤだな、俺の気持ちを疑うのか?」 「疑わせてるのはテメェだろうが。腕なんか組みやがって」 詰るように言い放った可愛い可愛い恋人に、男はこれ以上顔のゆるみをこらえることが出来なかった。 結局さらに怒ったらしい恋人にまたも拘束されたが、あやつった腕で自分を抱きしめさせたあたり、ドンキホーテ・ドフラミンゴは本当に、可愛い可愛い海賊だ。 end 戻る |