TOP:小説:メモ:レス |
エースくんとスペードクルー(notトリップ主) エースくんがウィンクできなかったら可愛いのではないか いや できても可愛い 「なあエース、お前ウィンクできる?」 「は?」 唐突な問いかけに、エースは首を傾げた。 なんだ急に、と見やった先には、酒瓶を持った男が赤い顔をして座っている。 なんだかんだと理由をつけて行われる宴で、今日も今日とて酒を食らって気分よく酔っぱらっているらしい酔っ払いは、その視線をエースの方へと向けていた。 「いや、お前、なんか出来そうにねェなァって思って」 笑いながらそんな風に言われて、む、とエースは少しばかり眉を寄せた。 「そんくれェ出来るっつうの」 「ほほー、じゃあやってみ?」 「ほら……あれ?」 失礼な男を前に実演してやろうとして、ぎゅっと片目を閉じたつもりが両方の目が閉じる。 思い切り顔に力を入れてしまったからだと気付いてすぐに目を開くと、目の前の顔がますますニヤニヤと緩んでいた。 「やっぱり出来ねェじゃん」 「出来るっつうの! ん!」 男のその態度に声を上げつつ、エースの目がまた両方閉じる。 自身のイメージでは華麗に左目を閉じている筈なのだが、つられた右目の瞼もぎゅっと力が入ってしまうのだ。 すぐに目を開けて、ぐぬぬぬと唸るエースの向かいで、男が楽しそうに笑っている。 なんともむかつくその顔を、エースが睨んだ。 「だったらお前もやってみろよ」 「おれ? いいぜ、ほら」 唸ったエースの向かいで、笑って答えた男が左目をぱちりと閉じる。 ついでに何故だか左手を自分の口元に添えて動かしたキスまで飛ばされて、エースは何となくその射線から逃れるように体をズラした。 「おいおいエースくん、受け取ってくれよ」 「キスはいらねェだろ、キスは」 どうやら、男はいつもよりさらに気分よく酔っぱらっているらしい。 えーと声を漏らして笑う男を見やってそんなことを思いながら、エースは手元の酒瓶を握り直した。 中身が少なくなったそれを揺らし、あと一瓶飲むかどうか考えながら、もう一度左目の瞼に力を入れる。 「………………んっ!」 「やっぱり出来ねェのな」 やはり力いっぱい両目を閉じてしまったエースの向かいで、そんな風に言った酔っ払いがけらけらと笑う。 「まァ、それはそれで可愛いからいいんじゃねェの」 「…………男に可愛いっつうなってんだろ、馬鹿」 楽しそうにしながらそんな言葉を放たれて、エースはまた口を尖らせた。 エースの海賊団に加入した目の前の男は、年下の船長であるエースを、ことあるごとに『可愛い』と言う。 いっぱしの男がそう言われて嬉しいはずもないとエースは何度も主張したし、ちゃんと言い聞かせている筈なのだが、男は決してその態度を改めない。 エースは何度も怒ったのだが男はまるで意に介さず、気付けばエースの方が慣らされている気すらする。 「せめてカッコイイだろ、おれは」 「自分でそう言うこと言うのがまた可愛いんだなァ、これが」 「この野郎」 「怒るなよー」 わざとらしく睨んでみてもひるまぬ男がそう言って笑い、その手が自分の酒瓶を揺らした。 その顔があまりにも楽しそうだったので、仕方なく、エースの口がため息を零す。 明日二日酔いしてても世話焼いてやらねェ、とエースが心に誓ったことなど、目の前の酔っ払いは知る由もないのだった。 end 戻る |