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エース船長とスペード海賊団クルーがズレを修正する話 むちゅってするエースも可愛いしがちってするエースも可愛いと思う 「男だぞ? いいのか?」 寄こされた問いかけに、おれは少しばかり首を傾げた。 なぜそんなことを言うんだろう。 ふざけているのかと思ったが、おれの正面にいらっしゃるおれ達の船長は、どうしてだか真剣そのものな顔をしている。 顔に散ったそばかすと、鍛えた体。いつも被っているテンガロンハットは今おれの頭の上にあるので、その顔には落ちる影もない。日差しがさんさんと降り注いで、黒い髪を少しばかり明るい色に照らしている。 おれ達がいるのはスペード海賊団が今日羽を休めると決めた一つの小島で、空の青さが綺麗だからと、『探検』の名目で船を離れたところだった。 おれは一人で出かけるところだったのに、後ろから着いてきた船長が、『おれも行く』と言ったのだ。それじゃあまあと仲良く出かけて、島の端。 絶壁の向こう側には大海原が広がっていて、随分高いなとそれを見下ろしたおれへ、話がある、とエースが言った。 「『いいのか』って言われても」 エースが言ったことじゃないかと、おれは正面の相手へ応えた。 おれの手はまだ目の前の相手に掴まれていて、しっかりと握りしめたそれがおれを逃がさないようにしている。 それはまるで相手へ縋るような力で、そんな風にされなくたって逃げないのになと、おれは船長を見ながら考えた。 おれが探検に出かけるのはいつものことで、エースが付いてくるのもまあよくあること。 だから二人きりになるのなんて今更で、けれどもエースにとっては、今日の『二人きり』は特別なものだったらしい。 『お前が好きなんだ』 まっすぐにおれを見て、伸ばした手でおれの腕を掴みながら、エースの口が言葉を絞り出した。 苦しそうな声音で、どうしてそんな風に言葉を吐き出したのかも分からない。 だって、エースがおれのことを好きだなんて、分かりきったことなのだ。 いつも隣にいる。おれのことを気に掛ける。おれに笑いかける。おれが同じようにすると嬉しそうにする。ついでにいえば、おれが女に声を掛けられると嫌そうな顔をする。 おやまあこれはと簡単に気が付いたし、そうして気が付いた後もずっと一緒にいることをおれが選択した理由だって、なんとも分かりやすいものだ。 『うん、おれもエースが好きだよ』 だからおれはそう答えたのに、これはもしかして、おれの気持ちはほんの少しもエースへは伝わっていなかったんだろうか。 戸惑いがおれの顔に浮かんだのが見えたのか、エースがぎゅっと眉を寄せる。 その視線が詰るようにおれへと突き刺さり、よく分からないながらもおれはエースへ近付いた。 一歩、二歩と距離を詰めたおれを前に、引かない船長が口を動かす。 「……伝わってねェだろ。お前のそれは、おれと同じじゃねェ」 子供がすねたような顔をして、エースが唇を引き結んだ。 そんなはずがないのに、まるで信じる様子の無い相手に、おれは一つ瞬きをする。 「……」 どうしてくれようかと少しだけ考えてから、自由な片手でひょいと自分の頭の上のハットを手に取った。先ほど、帽子を持ってくればよかったとぼやいたらエースが貸してくれたそれはエースのトレードマークだ。 それをエースの頭の上に戻して、そのことにびくりと動いたエースの体を、掴まれていた腕を引いて引き寄せる。 帽子ごと頭に触れたままの手を使ってエースの顔を無理やり自分の方へと向けさせて、そのままちゅっと子供みたいな音を立ててその頬へ吸い付いた。 近くにあったエースの顔が目を見開いていたので、それを見つめ返しながら少しだけ顔を離す。それでもほとんどテンガロンハットの内側なので、エースの吐息がわずかに自分の唇に触れたのを感じた。 「本当は口にしたいってくらい好きだけど、エースはそうじゃないのか」 尋ねる体を取ってはみたが、おれの言葉はまるきり質問にならなかった。 だって驚いているエースの目にみるみる広がる感情は、羞恥ではあっても嫌悪や怒りではないのだ。 「男でも、もしどっちかが女でも、おれはエースがいいな」 一緒に船へ乗ろうと言ってくれたあの日から、おれはこの船長の虜だ。 言葉を紡いで笑いかけた先で、エースの顔が少しばかり赤くなった。 可愛らしくも思えるそれにもう少し笑ったところで、おれの腕を掴んでいない方のエースの手がおれの胸倉へと伸ばされた。 がしりと掴まれて、驚いて身を引く前に引き寄せられたと思ったら、エースの顔が先程より近付く。 「おれは! 口にするぐれェ好きだ!」 がち、と歯のぶつかった音がして、痛みに口を押さえたおれをよそに、そんな宣言をしたエースがまだ赤い顔で笑った。 end 戻る |