- ナノ -
TOP小説メモレス

マルコとホワイトデー/小話
マルコと白ひげ海賊団クルー

3月14日は何の日?

スモーカーとペロスペロ―とアルビダの誕生日
キャンディーの日
マシュマロの日
円周率の日
数学の日
美白の日
↓ホワイトデー





「そういえば今日はホワイトデーだった」

 カレンダーをしげしげと眺めてから寄こされた言葉に、マルコは軽く首を傾げた。
 それから見やれば、とても困った顔をした男が、眉すら下げたままマルコの方へ顔を向ける。

「マルコに渡すお返し用意してない……」

「それをおれに言うのかよい」

 嘆きに満ちた声で寄越された言葉に、マルコの口が呆れを漏らす。
 ちょいちょいと手招けば男はあっさりマルコの方へと近寄ってきたので、マルコはそのまま相手を自分の近くにあった椅子へと座らせた。
 夕食あとから部屋に戻っていたマルコのところへ、夜食を作ってきたと言って男がやってきたのは十分ほど前のことだ。
 彼がマルコに軽い手料理をふるまうのはまああることで、夜中にやってきたのもただ時間を潰したかっただけだということは知っている。あと数時間もすれば、男は見張り台の上で当番をしなくてはならない。
 そうしてやってきてしばらく話していたと思ったら、急に立ち上がってマルコが机に置いてあった暦を見つめ、そして先ほどの台詞である。

「大体、おれァバレンタインにチョコレートを渡した覚えも無ェよい」

 そう言った行事を好む仲間も多いが、マルコは基本的に記念日を拘ったことがない。
 もとより白ひげ海賊団は大所帯であるため、船員全員が盛大に祝うのは船長の誕生日くらいなものだ。
 ちょうど一か月前の今日なんて、マルコはちょうど船を離れていたところで、日付を超えて帰ってきたら部屋の中にチョコレートが溢れているという謎の攻撃を受けた程度のことである。
 贈り主であるナース達へのお返しとやらについては、しばらく前に徴収が来たので出資してある。弟分が用意すると言っていた贈り物はきっとナース達を喜ばせるだろう。

「まァそうなんだけど」

 マルコの言葉に頷いて、男はその手を皿へと伸ばした。
 マルコと食べるためにと作ってきた夜食の平たく具の少ない小さなピザは、もう半分もない。

「マルコからのチョコレートは自分で用意したから、あとはおれがマルコにお返しするだけだったんだけどな」

「…………なんだって?」

 口にチョコレートを運びつつため息すら零した男の言葉に、マルコは片眉を動かした。
 まるで意味の分からないことを聞かされたような気がする。

「手前で準備したんなら、それにお返しをする必要はねェだろよい」

 馬鹿なのかと男を見やると、だってマルコはバレンタインにチョコレートくれないだろ、と男が言う。
 確かにそうだ。
 マルコは記念日を気にしないのだから、バレンタインなんて日が近くなったからと言ってチョコレートを用意したりはしないし、ねだられてもいないのだから誰かに渡すこともない。
 しかし、その事実と男の言うことはまるで結びつかない内容である。

「……で、買ったもんは自分で食ったのか」

「ん? おう。なかなかいいガトーショコラだった」

 マルコの問いに大きく頷きを寄こされて、マルコはどうにかため息を飲み込んだ。
 現物を用意したのなら、それをマルコにでも寄こせばよかったのではないか。
 日付が変わっていようが渡されたら受け取ったし、その時に『お返し』とやらを念押しされていれば、さすがのマルコだって何かを個別で用意しただろう。
 男がそうしていたら、マルコも帰って来て早々に部屋に置かれていたチョコレート達を一つ一つ検め、名前を確認することだってなかった。
 マルコの手がピザの一切れをつまんで、その口へと運ぶ。
 まだ温かいチーズとトマトが口の中にその味を広げ、噛み締めたそれを飲み込む。

「…………お前、相変わらず阿呆だねい」

 たまに支離滅裂な発言と行動をする男を見やって唸ったマルコに、ひどいなァ、と男が笑った。



end
戻る