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時々マルコ 主人公は無知識系トリップ主 微妙に名無しモブがちらっといます注意 「行かせねェよい!」 怒鳴りつける声とともに飛翔した青い炎が、そのまま敵船へ向けて飛んでいく。 流れ星みたいなそれは随分な衝撃を与えたようで、船のメインマストが大きく傾き、敵側から野太い悲鳴が上がった。 「うーわ、マルコ隊長かっこいー」 遠目にそれを見やって言葉を紡ぎつつ、俺は手元のロープをくるくると巻き上げた。 本船であるモビーディック号から離れたこの船なら襲えるとでも算段を付けたのか、『白ひげ』に喧嘩を売るなんて馬鹿をしでかした海賊たちに襲われたのは、ほんのついさっき。 連中の一番不運だったことは、たまたまこの船に数人の隊長格が乗り込んでいたことだろう。 気付いて慌てて逃げだしたが、あの通り、お怒りの一番隊隊長からの追撃まで受けている。 そうでなくてもジョズ隊長がぶちかました攻撃のおかげで船体にはひびも入っているので、大海原を逃げていくことは難しかったに違いない。 近くに島でもあったかな、そこに流れ着きゃあいいけどな、と不死鳥の炎をまき散らす海賊が暴れるさまを見やっていると、ぽん、と軽く頭を叩かれた。 そのまま乗せた手に力を込められて、ぐいと頭が引っ張られる。 「いったいです、サッチ隊長」 「痛くしてんだから当然だろ」 ほとんど仰向けになりながら声を上げると、片眉を動かした四番隊の隊長が、そんな風に言葉を紡いだ。 見てねェで手を動かせと言われて、はぁいと子供みたいに返事をしながらロープを手繰る。 船の上には、俺と同じく戦闘の後片付けをしている連中が何人もいる。 俺の傍らで折れた木材やらを蹴り上げては拾っていくサッチ隊長もそのうちの一人だが、いつになく荒々しく木材をけ飛ばすその様子に、俺は少しばかり首を傾げた。 「サッチ隊長、それ、甲板に穴あきません?」 「そこまでやわなつくりはしてねェよ」 とりあえず傍らから声を掛けてみるが、返事は随分とそっけないものだ。 しかし、一年前に拾われた俺よりも、サッチ隊長の方が船との付き合いは長いだろう。 だからサッチ隊長が言うんならそれもそうかと納得して、自分も片づけを続けることにする。 連中が船に乗り込むべくかけてきた縄も、ありがたく再利用させていただくのだ。 一本、二本と巻いていきながら、にしても、と口を動かす。 「急に襲ってくるんですもん、驚きますよねェ」 「まァな。『白ひげ』の旗を見て襲ってくるんだ、さぞかし骨のあるやつらだと思ったが、乗ってる顔ぶれを見て逃げ出すたァがっかりだ」 飯でも作ってた方がましだったとため息まで零されて、そういうもんですかねェ、と俺はロープを手繰りながら言葉を零す。 「俺としては、相変わらずドキドキでビックビクでしたけど」 俺が生まれ育ったあの国とは違い、この世界には争いごとが溢れている。 もしも連中が逃げ出さなかったら、俺だって応戦する一団に加わっていただろうが、へっぴり腰だったことは間違いない。勝てる気がしない。 「相変わらずビビりだなァ」 「ビビってません。怖がってるんです」 「おんなじじゃねェか」 呆れたような声を寄こされても、こればっかりは仕方ない。 暴力とは無縁な場所で生きてきた人生は無かったことにはならないし、ある程度護身術を習ったとは言え、それを『人』に向けられるかというと決して頷けないのだ。 俺の顔を見て、サッチ隊長が緩くため息を零す。 「だけどマルコのあれはかっこいいんだろ?」 「え?」 「こちとら、お前がそんなだから、びびらせねェようにしてんだろうに」 まったくよォ、と続けながら伸びてきたサッチ隊長の手が、俺の手からロープを一巻き掴まえた。 それと共に、持っていた木材が真上へ放り投げられる。 重ねた状態で宙に浮いたそれは、横向きから縦向きに向きを変えて落ち始め、サッチ隊長の手が素早く動いてそれをロープで束ねあげた。 甲板に落ちる寸前でその手がきつくロープを締めあげ、その動きのままサッチ隊長がロープごと掴んだことで、木材の落下が止まる。 ぎりぎり甲板にたたきつけられない位置で一旦動きを止めた木材の束が、結び具合を確かめるサッチ隊長の腕によって軽く上下に振られた。 「サッチ、こっちにくれ」 「おー」 そうして彼方から寄こされた声掛けに、返事をしたサッチ隊長の腕が木材の束をそのまま振りかぶる。 ぶん、と放り投げたその束は、まるで一本の太い棒のようにまとまったまま飛んでいき、待ち構えていた仲間が簡単にそれを受け取った。 どこかへ運んでいくそれを見送ってから、サッチ隊長がこちらを振り向く。 「まァあれだ、次はおれのすげェとこも見せてやるからよ」 黄色い声援でも送る練習しとけ、とにかりと笑ったサッチ隊長の手が、ばしばしと俺の肩を叩いた。 そこでどこからかサッチ隊長を呼ぶ声がして、返事をした隊長が俺からロープの束達をすべて奪い取って、そのままそちらへ向かっていく。 甲板に佇んだままそれを見送った俺は、サッチ隊長の背中が見えなくなったところで、少しばかり首を傾げた。 「……えー……?」 「何してんだよい」 ばさ、と鳥がはばたくような音とともに、そんな声が落ちてくる。 それに気付いて見やれば、マルコ隊長が船へと戻ってきたところだった。 随分すっきりした顔をしている相手を見上げて、マルコ隊長、と相手の名を呼ぶ。 「もう済んだんですか?」 「あァ」 見てみろと自分の後方を親指で示されて、とりあえずそちらを見る。 先ほどの敵船はさっきまでより離れた場所にいるが、やはり船は傾いている。ついでに言えば端には白旗を振っている船員が見えるので、降参させてきたらしい。 近くの島までは持つかな、とその姿を見送った俺の横で、それで、とマルコ隊長が言葉を零す。 「ぼーっと突っ立ってるなんて珍しい。何してたんだよい」 「いや、サッチ隊長の無自覚さについてちょっと考えてました」 「サッチの……なんだって?」 問われて返事をすると、マルコ隊長が少しばかり怪訝そうな顔をする。 ちらりと見やったその顔に少しだけ笑ってから、困ってしまった俺は首を傾げた。 「サッチ隊長ってすごいしかっこいいですけど」 サッチ隊長のあの台詞は、いったいどういう意味なんだろう。 『すげェとこ』の前に『もっと』とつくんだろうか。 今以上のすごいことって何だ。世界でも救うのか。勇者か。 「勇者って海賊の肩書としては微妙ですよねえ?」 「………………そうだねい」 雨って空から降りますよね、くらい常識的なことを聞いてしまった俺の横で、何故だかマルコ隊長は何とも言えない顔をしていた。 end 戻る |