時は12月半ば。私立高校の受験時期まで3ヶ月を切った今。私は担任の先生に話があって職員室を訪ねていた。向かい合う形で座る先生は、もう何度目が分からない質問を再び私にする。けれど、何度聞かれたところで私の答えは変わらない。
「高等部に進むつもりはありません」
中等部でお世話になった先生や友達、学校生活で一番長く同じ時間を過ごしたバレー部の仲間。そして、中高一貫校ならではの環境から、関わりの多かった高等部のバレー部の先輩達。この3年間に知り合った人達と離れるのは辛い。
だけど、高等部に進む方が……私には辛い。
*
「みょうじ!」
先生との面談からの帰り。一番会いたくなかった人に呼び止められた。少しでも早く家に帰りたくて、ショートカットするのに体育館横の道を選んだことを後悔する。
「高等部に進まないってどういうことだよ!顧問にも担任にも止められてんだろ!?」
一方的にまくし立てられるも、私には彼に返す言葉など一つも持ち合わせていない。黙り込んだままの私に構わず、彼は声を荒げる。
「白鳥沢でずっとバレーしたいって言ってたじゃねぇか!なのになんで…!」
彼が近づいてくる足音が聞こえてくる。距離がどんどん縮んでくるのが分かる中、私は動くどころか顔を上げることすらできない。
「おい!なんとか言えよ!なまえ!」
近づいてくる足音が止むのと同時に、強く腕を掴まれた。
返事をする気も、顔を上げるつもりもなかった。それなのに、数ヶ月ぶりに名前で呼ばれ、つい反射的に彼の方を見てしまった。この時、自分がどんな顔をしていたのか分からない。けれど、私の顔を見た彼はハッとして掴んでいた腕を離した。
「俺のせいなら……それならそうとハッキリ言ってくれ…!」
悲愴な面持ちの彼に何も答えず、キリキリと痛む胸を抱えて私は足早にその場を立ち去った。
それからどれだけの時間歩いたのか分からない。
ふと我に返れば、住宅街の中にポツリとある小さな公園の前にいた。物心ついた頃から1人になりたい時によく来ていた公園。街灯の少なく、自販機の光ですら街灯の1つとなっているそこは、静かで居心地が良かった。
「冷たっ…」
頬に突然感じた冷たさに、空を見上げたら無数の雪が宙を舞っていた。ずっと下を向いて歩いていたから気づかなかった。
街灯に照らされ舞う雪は、一瞬輝きを放った後、地に落ちて消えた。その光景があまりにも綺麗で、つい魅入ってしまう。
眺めていたら、ふいに温かいものが頬を伝った。
いつか……いつかこんな苦しい日のことも、笑い話になる時が来るのかな?
降りしきる雪の中、涙を拭うと、私は再び歩き始めた。
2018.10.08
On a snowy day of March
On a snowy day of March