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The present time

「申し訳ございません」

電話の相手に向かって謝罪の言葉を繰り返す。
この会社に入ってから1年。私は一体どのくらい電話越しに頭を下げて来ただろう。

「みょうじ、午後から先方様に直接謝罪に行くからな」
「…はい」

顧客のクレームの原因となった商品の資料とクレーム内容の書かれた書類を引き出しから取り出し、机上に置いた。

私は大手メーカーのお客様係としての勤務している。お客様係とは、一般にはお客さんの要望や相談を受けたりと、会社の窓口となるイメージだが、実際はクレーム処理業務がほぼ8割を占めている。

商品のクレームやスタッフの接客態度等のクレームはまだ分かるが、中にはすぐに腹の虫が収まらず、こちらの電話対応から仕事への姿勢、人格を否定するような暴言を吐かれる事だってある。これも仕事の内だと自分に言い聞かせてきたが、確実に限界が近づいてきている。

「お昼取ってきます」
「ちゃんと戻って来てよー?」
「大丈夫です」

先輩は自分のデスクから少し顔を出し、大きめの声で私に言った。昼に休憩を取りに行ったっきり、戻って来ない人が少なからずいるからだ。

私は足早に事務所を出た。電話が鳴り続けているあの空間では、休まる気も休まらない。







昼休憩で来たのは会社近くの公園。ここは遊具があまりなく、綺麗な割に人が少ない。私にとって絶好の穴場スポット。
一番端のベンチに腰掛ける。

「あー、マジだりぃうちの親」
「うちも夏休みだからってダラダラすんなとか言ってくるし」
「ストレス発散にカラオケオールとか行っちゃう?」

公園の前の通りを女子高生達が歩いて行く。
親がだるい…か。私も親を煩わしく思った事は数え切れない程ある。両親は共に仕事でそれなりに実績を残してきている人達で、私は彼らの敷いたレールの上を歩んできた。就職先くらいは自分で決めたいと、受ける会社だけは選んでいたが、両親の目もあり大企業ばかり受けた。そして、全て落ちて就職浪人。新卒2年目にしてやっと大手メーカーであるこの会社に入ることができた。両親には営業職だと職種を偽っているが。

「はぁ…そろそろ戻らないと」

僅かに残っていた昼食を全てかきこむと、ベンチから思い腰を上げる。休憩時間はまだ残っていたが、午後の上司との業務の準備のため、早めに戻る事にした。

…そもそも私、なんでこの仕事を選んだんだっけ。何でもかんでも馬鹿正直に受け止めてしまう自分には一番向いてないじゃない。私は一体何をしているのだろう…

モヤモヤした気持ちを抱え、来た道を戻りながら、再び会社まで歩いた。



2014.08.08 
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