肌寒さから目が覚めてしまった。窓から外を見ればまだ暗い。枕元に置いてある目覚まし時計を見て、今の時刻が5時だと気づく。起床時間まで後1時間。もう少しくらい横になっていたい。横になったまま、胸のあたりまでずれ落ちている掛け布団を掴む。
「……あれ?」
掛け布団って薄手の毛布1枚だけだったよね?でも今、手に掴んでいるものは薄手と呼ぶには分厚すぎる。というか、そもそも今の時期は薄手の掛け布団1枚でも暑いくらいだ。それなのに、この寒さは何だろう。冷房もいつも2時半で切れるように設定してるからついているはずないし…。ひょっとして、タイマー設定を忘れて寝てしまったのかな。
「リモコンこの辺に置いてなかったっけ…」
少し体を起こし、目覚まし時計を置いているベッドの棚を見るがリモコンは無い。ここ以外には置かないのに。
「お母さんか、希依かな」
お父さんは単身赴任で今いないし、きっとあの2人が何かしらの理由で場所を移動させたのだろう。じゃあ寝る前にどうやって冷房つけたのだろう。
「とりあえず今は寝よう」
出した覚えのない厚手の布団のことも、どうやってつけたか分からない冷房のことも、考えるのは起きてからにしよう。横になれる今の時間を削ってまでわざわざ考える必要はない。
勢いよく横になったせいか、その弾みで横髪が顔に掛かる。
「近い内に髪切ろうかな。…え?」
顔に掛かった横髪を手で払いのけた時、違和感を感じた。すぐに髪を触って確かめると、肩よりも長かった髪が、肩につかない長さになっていた。
慌てて起き上がると、姿見の前に立つ。
「え!えぇ!?ウソ!髪短くなってる!」
姿見に映った自分を見て、一気に目が覚めた。これは絶対おかしい…!!寝ぼけてるとかそんなレベルじゃない!
豆電球だけで照らされていた部屋が、電気をつけたことによりハッキリ見えるようになった。
「な、なんで…」
写し出された光景に頭がついていけず、その場に立ち尽くす。家具の位置はさほど変わってないが、カーテンの色やカーペットの色が変わっている。これって大学入って部屋の模様替えする前の…。それに…
「制服?」
机には高校の時に使っていた通学カバンがあり、壁には制服が掛けてある。何これ…意味が分からない。壁に掛けているカレンダーを見れば、4月になっていた。
「4月?でも今年の祝日は土曜と被ってたはず!」
新年度そうそう3連休にならず、ガッカリした覚えがあるから、これだけは間違いない。けれど、4月の唯一の祝日である29日は水曜日になっている。
恐る恐るカレンダーの年を見れば、それは6年前の年になっていた。あるはずがない、こんなこと。そうだ、これは夢なのだ。
必死に自分に言い聞かせていたら突如、部屋のドアがノックされた。
「!?」
バッと、ベッドにある目覚まし時計を見ると、目が覚めてからまだ10分しか経っていない。つまりまだ5時代なのだ。そんな時間に誰が何の為に来るのだろうか。…もしこれが夢なのだとしたら、訪ねてくるのは家族とは限らない。
「だ、誰…?」
「私よ」
怖々と返事すれば、部屋のドアがガチャリと開いて、見知った顔が入ってきた。
「お、お母さん?」
部屋に入って来たのはお母さんだった。驚く私を見て、お母さんは怪訝そうな顔をする。
「起きてるならいいわ。起こしに来ただけだから」
「ま、まだ5時半だよ?」
「貴方、今日は学校で課題テストがあるから、朝早く起きて勉強するって言ってたじゃない」
私がまだ寝ぼけていると思ったのか、目覚ましに顔でも洗って来なさいと言って、部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待って!学校って何?私2年前に大学卒業したでしょ!?」
そう切り返せば、お母さんは顔をしかめて振り返る。何を言ってるのこの子は、と言うかのように。
「…顔を洗ったらリビングに来なさい。朝食用意してあるから」
それだけを言うと、お母さんは出て行った。私はバタバタとお母さんの後を追うように1階に降り、真っ先にリビングに向かった。そして、リビングに入るとテーブルに置いてある新聞を手に取る。…やっぱり日付が6年前のものになっている。これが夢か現実かは分からないが、ここは6年前の世界だということだけは確信した。
〈続いては、昨日発売された新型ゲーム機について…〉
テレビを見れば、6年前に発売されたゲーム機が映し出されていた。
2018.08.08
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