生涯愛すと誓いましょう。


親子パロ






雨が降った。
窓際に揺れる、白い頭のてるてる坊主も虚しく。














「……」



揺れるてるてる坊主を見つめる。
面白くない、つまらない。

冷たい窓に手をついて、ガラスの奥の暗い空を切れ長の瞳が射抜くように睨んだ。











今日は、ディーノと一緒に動物園に行く予定があった。
雨が降ったらダメだけど、晴れだったら行こうな。そう言われて、約束も取り付けた。

あまり家に帰れないディーノ。
帰ってくるのはいつも恭弥が眠った後で、そうして恭弥が起きてくる前にまた家を出て行ってしまう。
だから、今日は一日休みを取れたと聞いて、一緒に出掛けようと約束してもらった。
柄にもなく楽しみにしていて、だから、こうして何の意味も成さないと知っているてるてる坊主まで吊り下げた。のに、



「…うそつき」



『晴れなかったね、ああ残念』なら良かった。天候なんて操れるわけもないし、雨ならばすぐに諦めるつもりでも居た。正直、ディーノと居られるのならばどこだって良かった。
なのに。




休暇が無くなったとはどういうことだ。



ディーノの仕事の都合もわかる。忙しいのも、幼いなりに十分理解している。
自分で言うのもいささかおかしいが、ちゃんと物わかりの良い子供でいるつもりだ。

それでも、一緒に居てくれると約束したその日くらい、恭弥に時間をくれてもいいと思うのだ。



「…バカディーノ」





一言小さく悪態をついて、電気も点けないままソファに寝そべった。








・・・・・・・・・・・









「ああぁあくっそ…」


終わらん。
書類の山に終わりが見えない。
先が見えない明日も見えない
目の前真っ暗、手帳も真っ黒
明日が見えない最早残りの今日も見い出せない。



「おいボス。戻ってこい」




半ばノイローゼに陥っていたディーノを引き上げたのは、新たな書類を複数枚手に持つ彼の腹心、ロマーリオだった。



「ロマ…もう駄目だ。一向に終わりが見えねぇ」

「文句ならシマに襲撃してきて、ボスの仕事増やした奴らに言ってくれ」

「くっそ…むしろ逝ったよそいつらは…」










昨日、前々から警戒していた敵対ファミリーが、ついにこちらに襲撃を仕掛けてきた。
勿論、戦争自体には圧倒的な勝利を収めたのだが、勝とうが敗けようが、戦闘の後というのは些か面倒くさすぎるデスクワークの後処理というものがもれなくついてくる。

それで、思いもよらぬ仕事が山積みとなったわけである。






「あぁ…恭弥に会いてぇ…」




一方的に破った恭弥との約束。
自分の仕事を理解してくれているあの子でも、流石にこれでは我慢ならないだろう。
少なからず、というより、随分と寂しい思いをさせている自覚はある。
こんな父親でごめんな…
溜め息をつきながら、書き終えた書類を端に、まだ白紙の書類に手を伸ばす。




「さっさと恭弥に会いたかったら、さっさとソレ片付けるんだな。半分終わりゃ帰ってくれても大丈夫だぜ」

「おーう…」


そう言い残し背を向けた腹心に軽く手を振り、ディーノは気のない返事を返す。





「…よっし」



次は、気合を入れて取り掛かる。

目標が見えれば、後は速い。














・・・・・・・・・・・・・・・・・




「きょーやー……」






控えめにリビングのドアを開け、そろそろと中に入り極力音を立てぬよう静かにドアを閉める。


午後一時。やっと書類地獄から解放されたのだ。






中に入るとリビングに光はなく、真っ暗。カーテンこそ開いてはいるが、朝から酷かった雷雨のせいで無いに等しい日光はなんの役にも立たない。
寧ろ、人の気配がしなかった。




さて、恭弥はどこにいるのか。

部屋で寝ているのかと思い、方向を転換してリビングを後にする。
それを、可愛いあの子の声がディーノを引き留めた。



「ぅ…でぃー、の…?」


「恭弥?」



再びリビングに引き返し、電気をつけて明かりを足す。
はたして、可愛い息子はソファの上で目を擦っていた。
何と可愛らしい。
本能に逆らわず、ディーノはすぐさま恭弥の元に駆けその少し冷えてしまった小さな身体を抱きしめた。



「きょーや、ただいま。」



そう言って、まだ小さなまあるい頭を撫でてやる。
しかし、


「…やっ」


小さな手で、己の髪の上に乗ったディーノの手をぐいぐいと引き離す。
両手をディーノの胸に置き、短い腕をいっぱいに伸ばして距離を取る。恭弥自身もその身を後ろに引いてしまった。




「恭弥ぁ…ごめん」

「…べつに」


どうせ雨だったし。と不貞腐れながら目を合わせてはくれない。





「…うん、ごめんな。寂しかったよな」


そう微笑むと、恭弥は釣り目気味の大きな目を引き上げて、眉間に皺を寄せて上目に睨んできた。


「さびしくなんてない」



うん。可愛い上目遣いだ。
抱きしめたままソファに座り、ディーノは恭弥を膝に座らせた。



「はなれろ」



可愛げのない憎まれ口を叩きながらも、素直に胸に摺り寄ってくる。
愛おしい。
ディーノの胸は、いつだって恭弥への愛おしさで溢れている。




「ん。じゃぁ、今日はどうせ雨だし。このまま昼寝でもすっか」

「かってに決めるな」


そんなことを言いつつも、ディーノがソファに寝転べば、恭弥も一緒に転がる。
素直じゃねーなあ。
でも、そこも、






(愛しい)





「動物園、次は絶対行こうな」




「…ねる」

「ん」


頬を緩く撫でてやれば、近いうちに規則正しい寝息が聞こえてくる。
















一生愛す。



窓際で揺れるてるてる坊主に気付き、愛おしさにディーノの頬が緩んだ。













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