02長閑な場所だからか、本人が呑気だからなのか。黒い真選組の隊服も亜麻色の髪も汚れてしまうのも構わず、沖田が草原で寝転んでいた。
ヒュンと弧を描きながら、硬いボールが飛んで行く。アイマスクをしていたはずの沖田が、身に迫ったボールを片手でキャッチした。
「寝てる人にボールを投げちゃいけませんて、学校で習わなかったんですかィ?」
「ハァ、知らねーな。今まさに事を成し遂げようとしている人にボールを投げちゃいけませんてのは常識だけどよ」
ゆっくり起き上がった沖田が、アイマスクをずらして銀時を見上げる。
現れた蘇芳色の瞳は、日の光を受けてキラキラしていた。
(こんなに澄んだキレーな目ぇしてんのによォ)
持ち主の中身の方は真っ黒だ。
この沖田の見てくれだけで、一体どれだけの人間が騙されてるのだろうか。
そして、騙している本人が真っ黒なだけに、騙されている人間をほくそ笑みながら、弄んで愉しんでいるに違いない。
そう思うと、銀時は沖田に弄ばれてる人間の、滑稽な様を見たくなった。
あくまでも第三者としてだが。
「旦那ァ、土方さんをおちょくるのも大概にしてくだせェ」
「あー? 何でだよ。沖田君に言われる筋合いはありませーん」
「いくら旦那が頑張った所で、奴ァ女しか愛せやせんぜ」
大きな瞳が、探るように銀時を見つめる。
そんな事は、銀時だって百も承知だ。
「沖田君、ああいうタイプって、体から屈伏させて陥落させちまえば、後は転がるように落ちてくると思わない?」
表情は変わらない。しかし、銀時をじっと見つめてくる蘇芳が、僅かに色味を増した。
「土方さんは駄目ですぜ、旦那」
「それって、なに。宣戦布告ってこと?」
「どうとでも取ってくだせェ」
沖田が立ち上がり、銀時に近づくと、掠めるようなキスをした。
互いに表情は変わらないままだ。ツラの皮の厚さじゃ、沖田も銀時に引けを取らない。
「どういうつもり?」
「真選組の副長は渡せないんで」
「へぇ……。沖田君で身代わりが勤まるの?」
銀時の辛辣な台詞にも、沖田は引く気を見せない。
銀時は目を細めながら、そんな沖田を見つめた。
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ホテルに行こうとした銀時を止めて、代わりに沖田が連れて来たのは、平屋の民家だった。
「何ここ、真選組の隠れ家的な何か?」
「まあ、そんな所です。さすがに隊服でラブホには入れないんで」
ここで誰かが生活している様子はないが、最低限の手入れはされているらしい。
「風呂はどうしやす?」
「入れんの?」
「ええ。俺はシャワーを浴びてきやす」
歩き出そうとした沖田の腕を銀時が掴んだ。
一瞬、びくりと沖田が震えたのを感じ、銀時は微笑む。
「必要ねーよ」
「……けど」
「ホラ、気が変わっちゃう前にさっさとしようぜ」
ユラユラと瞳を揺らしながら俯く沖田を銀時は抱き寄せた。
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