触れたらすべてが変わってしまう
『え、先輩いいんですか?』
「んー?だって俺今一人だもん」
『・・・もういいんですか?』
「だってまず告白してきたの向こうだし?」
『いや、だとしても・・・』
「てか、一応二人は避けてたけど普通に俺田邊ちゃんと飲み来てたじゃん」
『まあ、そうですけど。でも私あの人に目、つけられてるんですけど』
あの人とは先輩こと深澤さんの元カノのこと。私がずっと仲良くしてもらってる先輩。
「ん〜、寝とったって思われるかな?」
『それは私と深澤さんがもし!もしですよ?付き合ったら言われるかもしれないですけど』
「そんなに強調しなくてもいいじゃあん」
『・・・だってそういうことに私となると思います?』
「俺はいつも田邊ちゃんかわいいなって思ってるけど?」
『っ・・・深澤さん、酔ってますよね?飲み放題の時間終わるし、もう解散しますか?』
「あ、俺ちょっと寄りたいとこあんの。でもさあ。酔ってるからあ、田邊ちゃん一緒に来てよ」
そんなこと言われたら断れるわけないじゃないか。私がどれだけ貴方のことを好いてると思ってるの?先輩に目つけられても、同期にどれだけ無理って言われても、貴方にどれだけごめんねって言われてもあなたを好きなのは止めれないのに。
只今、23時。
「田邊ちゃんってさ〜、いつもサークルの飲み会の時、門限が〜っていうけどあれ嘘っしょ?」
『え?』
「だって一人暮らしでしょ?」
『え?』
同期にも誰にも一人暮らしなんて言ってない。
「俺さ、この間偶然田邊ちゃんが家入ってくの見たんだよね〜。あそこ一人暮らし専用じゃなかった?」
『・・・何言ってるんですか?』
確かに私が住んでるとこは一人暮らし専用だけど。そんなの当てずっぽうだろう。
「だって俺、最初の1年、あそこ住んでたもん」
『は?』
「んは、めっちゃきょとんってしてるじゃん」
先輩相手に、しかも常日頃可愛く見られたい人に向かっては?とか言いたくなかったんだけどな。
『え、いや』
「一人暮らしならいいよね?」
肩を組まれた。顔をのぞき込まれた。こんなに深澤さんと近くなったことないと思う。
『え、あの』
「はい、入って〜」
歩いてる間に、どんどんどんどん住宅街に入っていっていて、肩にまわされた腕は私を逃がさないためなのではないかと思うくらいには冷静だった。
勝手に座ってて〜と声をかけてくる深澤さんはそのままキッチンに消えていった。あったあった〜と戻ってくる深澤さんの手に握られたのは2つの缶ビール。
『え、深澤さん?私ビール飲めない・・・』
「知ってるよ?だからだよ?」
『え?』
「飲めない理由さ、酔いが回るのがはやいからでしょ?」
『・・・まあ、そうですけど・・・』
「はい、朝まで飲むっしょ?酔った碧唯見たいな〜って」
本当に深澤さんはそれ以外飲ませてくれなくて、水でいいっていうのにそれも許してくれない。
「碧唯〜?」
『っ・・・なんですか』
「・・・こっち向いてよ」
『なんです・・・・え』
「ふふ、碧唯かあいいね」
ただでさえビールで酔うのに、口移しなんて余計に酔う。
辰哉さんの手が項に触れた。