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サンマナ(+ジギ?))








仲が悪いのは、わかっている。お互い嫌いじゃないのもわかってる。
だけど、どうしても口論してしまうのを仲が悪い、で片付けたくなかった。






ソファーで睡眠という休息をとっているジギーに毛布を掛けてから、残ったカップやポットを流しに持っていく。できるだけ音はたてないように配慮した。だけどモヤモヤした気持ちの私は粗雑に物を扱ってしまうから、カツン、何度も食器が鳴いた。
博士とはよく口論をしてしまう。
今日の出来事もそうだ。
だからといって、一日が変わってしまうわけではない。
気を取り直して、手に優しいアロマをブレンドした泡で、手際よく洗う。
多分弾けた泡が、やっぱり目に染みた。



(わからないわ)



なんであんなにご機嫌だった上司が急にイライラして、ラボに戻ったのかわからなかった。つい先程、博士と館長とアリアさんとで私の持ち場、癒しの館でお茶をしていた。途中でジギーも来て彼にもお茶を出した。
それから暫くして、だ。
博士は急に帰る!と言い出したのだ。回復ハーブ入りのクッキーを焼け、と行っておきながら。
つかつか癒しの館を出た彼を追いながら聞いたら、廊下で軽くいい合いをしてきてしまった。
それがつい先刻。









「クッキーはどうするんですか!?」
「後で頂く」
「出来立てがいいって言ったのは博士ですよ!?」
「だが、私は休憩より仕事を優先せねばならん」
「言ってること無茶苦茶じゃないですか」
「私よりも、お前は館に残してきた奴らをもてなさなければならないだろ。それが職務の筈だ」
「…‥それはそうですね。でしたら、ご自分の職務中に来た貴方は何ですか」
「結果が出るまでの時間の有効活用だ。お前もさっさと戻れ」





吐き捨てるように言われて、泣きたくなった。
それでもこんな上司のせいで泣くのは嫌だと思ってすきび返した。
別に言い合いをしたいわけじゃない。
博士が悪い人でないのも、おかしな人でもないのも、知ってる。
博士のいいとこだって、知ってる。
だけど、いつもこうなのだ。
喧嘩別れになってしまう。
これは仲が悪いのだろうか。そうだと、思いたくは無いのだけれど。
はためいた白衣が、すれた。




気が付けば、癒しの館の扉は目の前にあった。
そんなに足早に廊下を歩いただろうか、なんて思いながら先程の事を気取られないよう出来るだけ大きくていつもの明るい声で「もう、博士ったら!」なんてぼやきながら館のドアを開けると、そこには眠りに浸っているジギーしかいなくて、現在に至るのだ。


館長とアリアさんはしっかり疲れをとることができたのか気掛かりだが、それよりも頭は喧嘩別れした上司がこびりついている。
ため息を吐いた。
カシャカシャと洗っている食器は擦れ、高い音をたてる。なんで上司とは喧嘩ばかりなのか。他の人とは楽しく会話できるのに。
なかなか落ちない汚れのように彼が張り付いてしまった。
嫌いじゃないのもわかっている。だけど気が付いたら口喧嘩して、もやもやして、いつもこうだ。
食器を漱ぐように心も漱げないものか。
苦笑いしたら、目が痛んだ。
食器洗いが終わる頃、近くでタイマーの鳴る音がした。





(出来立てのマナの回復のハーブ入りのクッキーが食べたいんだ)




私の我が儘だが、聞いてもらえるか?
ついさっき言った彼は、多分照れたように笑いながら言っていたんじゃないかと思う。見えないから感じるままに反応して、笑顔で直ぐに焼きますね、と言えたのに。
拭き終えた食器の代わりにクッキー用の皿を取り出し、手にはミトンを装着し、クッキーを取り出す。見えなくても、手慣れたものだ。
そして上司の好みの焼き加減だって熟知している。出来立てはやわらくて回復のハーブことミントの香りがはっきり漂うのが、冷めたらサクッとして口内にシトラスが広がるたのが、大好きな人なのだ。だから彼だけ、いつも出来立ての注文をするのだ。
初めは職務だから面倒でも仕方ない、と思ってた。けれど、今じゃそれは恒例の事で苦でもない。お陰で火傷なんてしなくなった。


何事もなく釜から取り出せたクッキーの香りが漂う。

ため息を吐いて、クッキーをお皿に盛り、テーブルに置いた。
テーブル横の椅子に座って一つ摘まんでかじると、彼好みのミントが漂った。
それは私も好きな香り。
だから、相性が悪いわけではないと思うのだけれど。


座った椅子の向かいにはソファーで安らかな寝息をたてているジギーがいる。


行き場のないクッキーを彼にでも食べてもらおうかと自棄になる自分がいた。
だけど、起こすのが忍びない。彼にも、クッキーにも申し訳ない。
もう一度ため息を吐いて、杖をついて立ち上がった。
仕方がない。
それに、今は余裕がある。


ご注文には、出来る限りお答えしなければ。それが職務である。


適当なラッピング用の袋に適度な量のクッキーを入れる。ミントの爽やかな香りを閉じ込めるようにリボンで封をする。何種類かあるリボンのうち、手触りでどんなリボンか確認してシュルルと手際よく作業する。
ちょっぴり可愛い(確か水色と黄色ってアリアさんが教えてくれた)水玉のリボンじゃなくて、渋い緑のリボンにしたのはほんの気遣い。
嫌いじゃないからこんな事してあげるのよ、呟く自分に気付いてあ、と、口許に手を当てた。

ハーブティーは流石に冷めると回復の効果が違うから出来ないと思って、足早に扉に向かった。
差し入れにはクッキーは最適すぎるのがいけないのよ、とぼやきながら。
すると、扉が軋む音がした。
あぁ、先にやられてしまった。彼が、入ってきた。
口論した上司が。






「すまないマナ、結果が出るまで後一時間程あった。クッキーとハーブティーをもうしばらくいただけるか?」






見えないけれど、博士は顔が赤いでしょうね。頭をかいているのでしょうね。
マナ?と、問いかける博士にどうぞ、と声をかける。
ジギーが眠っていますからお静かに、ともお願いしながら。
そして席に着いてハーブティーを出しながらようやく、私も博士に差し入れに行こうとしていました、とラッピング袋を差しだすことができた。
博士は何も言わなかったけれど、照れたように笑った気がするからお皿に盛ったクッキーをすすめた。
出来立てですよ、と。
いただきます、と律儀に言った上司がクッキーをかじると、爽やかなミントに甘いクッキーの匂いが漂った。

それで、まぁ、いっか、と思えた自分の感情が不思議だった。うん、上手い、と呟く彼の姿に私は本当に喧嘩したことがどうでもよくなった。
こんな感情になるのだから、やっぱり私と博士の関係は仲が悪い、だけでは形容できないと思った。



私の職務は疲れをとること。
精一杯のおもてなしをする事。
香りで人を癒すこと。
だから、博士に気分は如何ですか?と聞いたら最高だよ、と返ってきて、つい、私もです、と応えいた。



クッキーの行方
出来立てを彼が喜んで食べてくれるのが、一番嬉しいかもしれない

































まるさんのssに触発されたサンマナ。
元(前話)のジギマナ←サン(携帯推奨)

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