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ザジシル





「おい!シルベット!」


いつの間にかスェード家を頻繁に訪れるようになったザジ。
だからシルベットは今日も呼び止められた事はさして気にせず、料理をしながら答えた。なーにー?と間延びした綺麗な声が響く。
その会話は夫婦を連想させるも、自覚のない本人たちには至って普通の事だった。

「コナーから花を預かってんだ。シルベットにって。ほら。花瓶、出してもらえねーか?」

「こんなんでいい?」

「おう!」


花束を見せながら聞くと、シルベットはキッチン下の収納庫から手頃な花瓶を出してきた。白いそれは薄いピンクの小さな花によく映える。どこか手慣れた手付きで水を入れて花を刺すザジ。料理をしながら横目にそれを確認したシルベットは小さく呟いた。


「ありがとう、ザジ。」

「礼ならコナーに、だろ」

「でも、一応ザジにも」


届けてくれたんだし。綺麗な声はザジに届く前に空気に溶けた。
スープをかき混ぜなからシルベットは小さく広角を上げた。整った顔の愛らしい口から少しだけフフッと声が漏れる。
だって、以前にもザジはコナーからだとか、館長からだとかと偽って花束をくれたことがあった。そしてザジに預けてくれた人にお礼を述べると話が合わなかった。
つまりそれが意味するのはこの花束がザジからのものであること。
決して自分からの贈り物とは言わないザジにザジらしいなぁ、と思いつつそれにのっている。
だけどもう一度呟いた。
ありがと、ザジ、と。
彼は頑なに俺にはいらねー言葉だろ、っと、か細く返す。
スープの火を止めてはいはい、と返しながらザジを盗み見たら顔を赤くしているもんだから、つられて赤くなりそうだった。それよりも、かわいいって思って噴き出してしまったけれど。


「何笑ってんだよ!」

「あ、いや、何でもない!ほらザジ、サラダとスープとパイを盛り付けるから手伝って」

「おう」



最早日常と化した会話に、キッチンには優しい空気が流れた。




「‥…ねぇ、ニッチ」
「なんだ、ラグよ」
「僕ザジと住まい変えた方がいいと毎日思うんだけど」
「ヌニィ‥」


キッチンのドアを僅かに開けて中を伺う二人と一匹は中に入るタイミングを掴めず、新しい住居先に頭を巡らした。


僕らのキッチン
(だけどそこは二人の空間。)
























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