サンマナ
ばちん!
頬を叩かれた。左の。
思わずじんじんする頬に手を当てた。そのまま固まってしまった。
普通女の子ならぱちん!っていう可愛らしい音だろうに盲目の彼女は力加減を知らないのだろうか。
痛い、と溢れそうになるのを堪えて別の言葉を吐き出す。それすら、頬を疼かせる。
「マ、ナ、」
「うるさいです!博士の馬鹿!」
背を向けたまま彼女は吐き捨てた。それでもその肩は震えていた。きっと小さな滴たちが君の瞼から溢れてる。泣かせてしまったのは俺、だ。
初めて直接耳にした彼女の暴言と涙。それがやっとおかしてしまったミスの大きさに気付くきっかけだった。
『俺の部下をやるよりゴーシュの元にいたいんだろう?結果を出せずにうつつを抜かすぐらいならさっさと出ていけ!!』
普段の彼女なら、怒ってきっと研究にせいを出すと思ったんだ。
そして俺はよし、とひとつ頷いて研究室を後にする、ハズだったのに。
(これはどういうことだ?)
君は研究にいそしむどころか俺を殴って泣いている。
彼女にかけるべき言葉がわからず、往生する。きっと、ゴーシュなら上手く立ち回るんだろうな、と思って本気で奴の元に言って慰めてもらえばいい、と思った。
上手くいかない僕ら
博士が彼女の真意を理解するまでおよそ30分。
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