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「館長‥」

机に向かって書類を真面目に片付けているときのこと、アリア君が小さく呼んだ。
息を吹き掛けたら消えそうな命の灯火のようなか細い声で。
ポーカーフェイスがお得意な彼女の表情の機微が少しだけわかるようになった今日この頃。僕を見つめる姿に憂いを感じて、それを払拭するようにいつものように、どうしたのかい?と聞き返したつもりでいた。



「脂汗が酷いですよ」




差し出されたハンカチを素直に受け取ってありがとうとお礼をのべる。
どうやら予想以上に顔に出ているらしく、館長机の向かいに立った彼女は心持ち眉を下げているように感じた。彼女の瞳が心配そうにしているのは気のせいでは無いらしい。


「あ、ちゃんと洗って返すからね」


おどけて言うと、今だ机の前に立つ彼女は差し上げます、と心配そうに言う。それにすまないね、と返したら休息をとっては如何ですか、という提案が下ろされた。




「ねぇ、僕そんなに体調悪そう?」
「とても」
「本当に?」
「隠しているのがバレバレになる程度には」



律儀に答えた彼女にそっか、とため息と微笑を返したつもりだった。けど、どうやらそれすらも辛い顔をしているらしい。彼女のポーカーフェイスは僅かに崩れたままだ。
君がキスしてくれたら治るかも、半分本気で半分おどけて言ったら珈琲淹れてきますね、と流された。





ポーカーフェイス
(僕の具合の悪さが出ているのなら、君の沈痛な面持ちはなんだい?)












解説
館長の加えている煙草は実は館長の持病薬だったとして。
薬(煙草)がきれた彼は持病のせいで不調ながらそれを隠そうとしていたけどアリアさんに指摘されちゃう、そんな話。

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